04 転生先は悪の支配者?

 ドリームバードのラスボスは、私の知るかぎりでは明らかになっていない。

 でも、大方の予想はついていた。
 主人公の行く手をはばむ、悪の一族。

 それがきっとラスボスだろうと、ドリバファンの間では有名だったのだ。

 
 この世の悪とされる一族の名は、『海の一族』。

 そう、その一族は、海で暮らしているのだ。

 
 
 そしてなんと! なんとなんとなんと!

 びっくり仰天、驚くことに、私の生活区域は、海だ! こんな偶然、あるだろうか?
 今いるこの場所も、海だ!
 水の中にある地面を二足歩行だ。
 泳ぐこともあるけど。
 二本足にしたり、ヒレにしたりと、変幻自在!
 
 昔の私の感覚からしたら、人が海で暮らすとかちょっと意味がわからないけど、生きているのだから、そういうものなのだろう。
 どういう体の構造なのかとかは不明だ。

 なにせ、記憶がよみがえるまでは、これは私にとってのあたりまえだったのだから。
 この場所が海であるという認識すらも特になかった。

 強いて言うなら、地上に住む人たちに、なぜ地上で二足歩行ができるのですか?! 走れる?! なぜっ!? Why!?
 と聞くようなものだ。

 そんなもの、聞かれたって困る、という人が大半だろう。
 なんだかんだ、なぜそこにいて、なぜそこで生きているのかなんて、生きている人すらもわからなかったりするものだ。

 
 とにもかくにも、私は海の中で生活をしているわけだけれど、この世界には、他にもいろいろな種族が存在している。
 というのも、マンガの知識だ!

 獣人だったり、巨人に小人に首だけ人間とかモグラ人間とか、その他もろもろいるらしい。
 私もちょこーーっとなら見たことがある。この海の中で。トラウマにもなったけど!

 まあ、そんな摩訶不思議な種族のひとつ、そしてすなわち、世界最大の悪、それが私だ!

 
 一見すると、海の一族は地上の人間となんら変わりない。足も二本だし、服も着てるし、顔の作りも似ている。
 海で呼吸ができることくらいだろうか? 唯一の違いは。  

 しかし、身分には天と地ほどの差がある。

 簡潔に述べよう。

 
 海の一族は、この世の支配者である。
 

 つまり、この世界全ての、『王』なのだ。

 ただし、世界征服をした悪の王……言わば、魔王的な感じだ。
 

 ドリバを愛する私の意見としては、ドリバは世界を征服した悪の一族(私だ)から自由と世界を取りもどす物語、だと思う。
 いや、きっとそうだ。絶対そうだ。
 なぜならっ!

 私も海の一族が嫌いだったからだ!!

 うわぁぁぁあ! どうして海の一族なんだ!
 なぜっ?!
 たしかに海の一族は金持ちだし、なんの不自由もない、私も平和にのびのびと育ってきた。

 でもっ、このままいけば私は死ぬってことだろう!?

 いやだァァァ、死にたくないっ!

 私は膝をついて頭を抱えた。
 どうすればいいんだ。私は死ぬのか!? 主人公と戦うのか!? 痛いのはイヤだ!

 
「はっ、まてよ……」
 

 そうだ、まだ物語がはじまると決まったわけじゃない。

 もしかしたら、私が生きているうちに、主人公は生まれないかも。
 私の人生に光の道が浮かびあがってくる。

 しかし、そんな私の希望を、私の愛するルイスが打ち砕いた。

 
 ひらり、と、胸もとから落ちてきた、一枚の紙。
 なんだろうと視線を向けて、絶望という名の崖から崩れ落ちる。ルイスのプレミア手配書だった。

 そうだった! ルイスが、いる……っ。
 生まれているっ!
 物語の歯車は、確実に動き出している……っ!

 ルイスと、主人公ランフォ・リン・ジークエンスの年齢差は、十歳くらいだった気がする。
 このルイスは、まだ二十にはいっていないと見た!

 つまり、今は、物語がはじまる前であるとみていいはず。
 まだ、時間はある。

 とりあえず、いろいろ調べなくては。
 ここは名探偵リィルの出番だっ。

 
 落ちたルイスの手配書を手に持ち、立ちあがる。
 部屋は、何度見渡しても、私の知っているものだ。

 つまり、私はリィル・クラッドであっているはずである。

 なんか不思議な記憶がよみがえったけれど、これは前世と言うことでいいのだろうか。死んだ記憶はないけれども。
 なんとも強烈な未練を持っていたということでいいのだろうか、前世の私よ。

 
 私の知っているリィルであっているのか、一応確認せねば。
 とりあえず鏡、鏡。

 部屋にどどーんと置いてある巨大な姿見の前に立つ。
 なんかこう、あれだ。最後の審判。ああ、それじゃない。エンマ大王の前かなんかで見るという……浄玻璃じょうはりの鏡? そんな感じだ。心持ちが。

 私はおそるおそる鏡を見た。
 いつもの私だった。

 なんだ、よかった。記憶に異常はなさそうだ。
 変な記憶がよみがえったから、突然記憶が飛んで急成長してたりしたらどうしようかと思った。

 
 じーっと鏡の中の私を見つめる。

 うーむ、いつも見てたからわからなかったが、前世の記憶とやらを頼りにするなら、まあまあの美少女なのではないか?

 とりあえず親指と人差し指をL字にひらき、アゴフィットさせ決めポーズをしてみた。

 うーん、この顔は美少女なのだろうか。そうではないのか? どっちなんだっ!

 
 腰あたりまで伸びたダークブロンドの髪に、青い瞳。どう見ても西洋人の顔をしている。
 しかし、残念なことがひとつ。
 この世界は美男美女がとんっでもなく多い!

 
「どうせなら、美人に生まれたかった」
 

 美人は生きているだけで得だ。
 悪の一族なんてものに生まれてしまったからには、美人がよかった。ウハウハしたかった。

 現実は無情である。

 
 鏡の前から移動し、今度はテーブルへと向かう。
 私の記憶が正しいかたしかめるには、ここが一番早い。

 テーブルの端に備え付けられている引き出し。その中の、上から二番目の鍵つきの引き出しをあける。
 板の板の板の下という、厳重なフェイクがほどこされたそこには、一冊の日記。
 まずは表紙を見る。

『リィルのドキドキ日記! ヒミツをすべて書いちゃうゾ』

 ふむ、記憶に異常なし。

 
 ペラリとページをめくる。
 えー、なになに。

 
『海洋歴2010年8月3日。
 今日は朝起きたら夜だった! なにもせずに一日終了!』

「……」
 

 過去の私よ、なんという堕落だらくした生活を……。

 また適当にページをめくる。

 
『海洋歴2010年10月10日
 ゾロ目の日! ゾロ目の日恒例の水中タイム記録をしていたら、いつの間にか知らないところまで行ってしまっていた。
 もしかして、瞬間移動ができるようになったのかもしれない。

 それにしても整備されてないところって真っ暗なのねぇ。知らなかった。

 お腹がすいたからそのへんの海藻を食べようとしたら、愛しのお兄さまがお迎えに……! はぁん、今日はなんてハッピーな一日。

 そして食べようとしてた海藻はなんと、食べたら一日笑いが止まらなくなるんだとか。

 お兄さま、言うのが遅いです。ひと口食べちゃった、ハッハッハ』

 
「…………」
 

 私はそっと、日記をとじた。

 
 ぐぉおおお! 日記って、日記って!

 なんかもう、いたたまれない!!!
 

 なにこの黒歴史! たしかに食べた記憶がある! ケタケタ笑い続ける私を、お兄さまが「いつもと変わらないから大丈夫」と優しくフォローしてくれたんだ。
 

 まあ、おかげでわかったこともある。

 私は私らしい。

 
 どうやら、マンガに出ていた海の一族とは、ちょっとズレているようだ。

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