5造られた世界

 ロンは淡い緑に輝くネックレスに触れ、リンネを手招きする。

 首をかしげつつもロンに近づいたリンネは、自分のマントに付けられているロンとおそろいの装飾を見た。

「契約のときロンに渡した魔法具……?」

「これはただの魔法具じゃないって、言わなかったか?」

「私の魔力がこもってるんだよね?」

 そもそも、この魔法具はリンネが魔法で生み出したものだ。

 それを身につけることでリンネの使い魔になると、ロンが口にしたのだ。

「まあ、細かいことはいい。とりあえずリンネ。ここに血を流せ」

「血!? や、やだよ!」

 リンネは自分を守るように抱きしめ、後ずさった。いきなり血を流せとは凶暴な使い魔だ。
 悪の本性が目覚めてしまったのかと、リンネは本気で考えた。

 ロンは顔を真っ青にして後ずさるリンネを冷めた目で見つめ、すぐにニヤリと笑う。

「いやなら、キスでいいぞ」

「キッ……! な、なっ」

 リンネは顔を真っ赤に染めて固まった。

「この装飾は魂の契約なんだよ。そこにリンネの血が触れることで、魔力が供給される」

 そう言われるとなんだか納得のできるようなものの気がしてくる。

 ロンはニヤリと笑ったまま、見せつけるように首のネックレスに触れた。

「口移しで魔力を渡すか、血で魔力を渡すか。二つに一つだな」

 そんなもの、選択肢なんて、ひとつしかない。

 リンネは顔を真っ赤に染めたまま、しぶしぶ口をひらいた。

「血に、する……」

 リンネはロンが意図的に伸ばした爪で、人差し指を軽く割いた。
 痛みが走り、目にはじんわりと涙がにじむ。

「ロ、ロン……っ、はやくっ」

「はいはい」

 ロンはむっつりとした顔でリンネのほうにネックレスを向ける。

 リンネの指先からあふれる血が、ポタリとネックレスに落ちた。

 緑色の石にじわりと広がっていき、やがて石に吸い込まれるように、リンネの血は見る影もなくなる。

「あ、消えた……」

 リンネがロンを見ると、うっすら消えかけていたロンの体が、しっかりと輪郭りんかくを取りもどしていた。

「よかったー! ロン〜!」

 半分泣きながらロンにしがみついた。

 こんなどこかもわからない場所にひとりきりにされた日には、リンネは餓死がししてしまう自信があった。

 ロンは自分の体を見つめ、何度か手をひらいたり握ったりを繰り返す。

「やっぱ、リンネの魔力量はすごいな」

 たったあれだけの血で、一気に具現化できるだけの魔力が供給された。
 その上、すこぶる体調もいい。
 これならば、何かあったとしても、リンネを守りながら動くことはたやすい。

 しかし、魔力を供給した当の本人であるリンネは、能天気に首をかしげていた。

「さあ、よくわからないけど、ロンが生きててよかった!」

「別に、死にはしねえけどな」

 この世界にいられなくなるだけだ。

 そもそも、使い魔に寿命があるのか、ロンにもよくわからない。

「じゃあ、ロンも元気になったことだし、ごはん屋さん探そう!」

「だから、金がないっての」

「チッチッチッ、甘いねぇ、ロン!」

 リンネはドヤ顔でふんぞり返った。

 何かをふっきったかのように、自信で満ちあふれている。

「ロン、よく聞いて」

「おぅ……」

 リンネの迫力に押され、ロンは一歩後ずさった。

「この世にはね、後払い、ってものがある! そう、あの悪魔な師匠に払いにこさせる……っ!」

 ぐっとこぶしを握ったリンネは、そのままこぶしを高く突きあげた。

「いや、それつまり食い逃げだろ?」

「やだなぁ、ロン。人聞き悪い。ツケ払いだよ、ツケ払い! それに……」

 リンネはぐるりとあたりを見回して、ニッコリと笑った。

「ココは、本の中なんだから。そんな真面目に払わなくても問題ないよ」

「…………どうだかな」

 リンネは管理者でありながら、いや、管理者だからこそ、本の中であるという認識を払拭ふっしょくできずにいた。

 造られた世界。

 もとからある世界。

 リンネは半人前だからこそ、本の中世界に来たのがはじめてだからこそ、管理者の役割も、世界の理も、リンネが生まれた意味も。

 何も、理解していなかった。

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