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5 親愛なる友人よ、どうも二度目まして3

 やることなすこと、全てが不幸に繋がる人、というのに、私は異世界に行ってはじめて出会った。

 その人がそれでも生きてこられたのは、その天才的な魔法センスがあったからに他ならない。
 いや、もしかしたら。

 生命の危機があったからこそ、極限を超えた魔法センスを身につけたのかもしれない。

 まあ、そんな卵が先か鶏が先かみたいな話は置いておいて。

 
 不運な男、モルス・カルディアの行く先には必ず、事件が待っているのだ。

 それは生命を脅かすようなものかもしれないし、ちょっと微笑ましくなるようなものかもしれない。
 どんなものかは分からなくても、何か、事件が起きる。
 つまり、何が言いたいかと言うと。

 モルス・カルディアがやって来たということは、この世界──は、言い過ぎかな。私の身の回りで、何か事件の起きる可能性がある、ということだ。

 なんてはた迷惑な魔法使い!

 
「カルディア先輩! もう、どうしちゃったんです? カルディア先輩〜!」

 ブツン。
 レティアナの必死の問いかけも虚しく、通信が途切れた。しんっと重たい沈黙が流れて、私たちは視線だけで会話を交わす。

 みんな、思うことは同じだった。
 関わりたくない!

「さてと、アオイと合流したし、ちょっと気晴らしに何か食べてくか」
 バンがどこか不自然にそう口にした。
「そうね! ねえ、アオイ。行きたいところある?」

 レティアナが流れるように気分を切りかえた。
 ……相変わらずだな、この二人。

「えーと、その前に確認したいことがあるんだけど、いい?」
「なになに、なんでも言って!」
「私、今日から新入社員のはずなんだけど……」
「そうね! アオイは今日から私たちとずーっと一緒! 安心して?」

 何を安心したらいいのかさっぱりわからないけれど、あまり突っ込んではダメな気がする。

「アモレリガー社って……」
「カルディア先輩が創った場所」

 バンがなんてことなさそうに答える。

 まあ、そうだよね。
 だって、アモレリガーって、あの世界の魔法学校と同じ名前だもん。

 アメリカの会社だっけ? まさかそんな会社があるなんて知らなかった。聞いたこともない。

 もっとニュースとか見ていたら、こんなことになる前に、彼らの存在に気づけたかもしれないのに。

「いつ作った会社なの?」

 そう聞くと、バンはピクリと片眉を動かした。

 ん? あれ、このクセって……。
 じぃぃっと食い入るようにバンを見ると、バンは下手くそな笑いを浮かべて人差し指を唇の前にたてた。

「はは……ナイショ」
「バンってさァ、ウソ下手だよねぇ……。やましいことあるとき、右眉がピクって動くの、知ってた?」

 バンがギョッとした顔をして、顔の右側を片手で押さえた。あ、それ厨二病の人がよくやる仕草っぽい。右目がうずく! って。

「で? 怒らないから白状しなさい。なーに企んでるの? ほらほらほらほら」

 バンの襟元をつかんでぐいぐい顔を近づける。
 嘘偽りは許さないと目玉をかっぴらいて脅した。

「あのさ……カオ、近えから」

 グイッと体を押し返される。
 いや、そんな冷静に対処されるとなんか、恥ずかしいんですけど?

「ご、ごめん……」
「いや……」

 バンはふくれっ面をしたまま、そっぽ向いて窓の外を見た。
 あのさぁ、バン、耳赤いの丸見えなんだよね。

 なんか、こう、なんだろう。ごめん。

 バンが案外ウブだったことを思い出して、そっと車のシートに座り直す。
 居心地悪い空気を抱えながら、指先をいじっていると、左隣がやけに暑い気がして目を向けて目玉をひん剥く。

「ちょ、レティアナ! もえっ、燃えてるんですけどォ!?」

 ゴゥゴゥと足元から炎が立ち上っている。いや、幻覚ですよね? でなければ困るんですけど!?

「むぅぅ」

 あ、本当にむぅって言う人いたんだ。いや、レティアナならめちゃくちゃかわいいから万事オーケーだけどね。

「ど、どうしたの。落ち着いて? どうどう」

 手負いのイノシシを宥めるつもりで、両手でレティアナをいさめる。

「アオイってば、バンばっかり」
「えっ? そんなことないと思うけど……。ホラ、バン今拗ねちゃってるし」

 指先でチョイチョイとバンを示す。
 車のドアに肘を乗せ、頬杖をつきながらこちらを見ていたバンは、ちょっとムッとした顔をしていた。
 面倒な気配を感じたから、私は見なかったことにした。

 レティアナはキュッと、可愛らしい唇を噛みしめて、こぶしを膝の上で握りしめた。

「私だって、ずっと、アオイに会いたかったのに……」

 やけに、か細く響いた声。

「……嫌なことでもあった?」

 レティアナの震える手を握ると、レティアナは小さく唇を尖らせる。

「嫌なことなんて、毎日よ」

 レティアナは王女様だ。

 あの世界のことなんて、私はよく知らないけれど、レティアナはなんか複雑な問題を抱えているらしかった。
 レティアナの得意魔法が変化魔法なせいで、ごたついているのだとか。

 そこらへん、詳しく突っ込まなかったなァ。

 だって、私からしたらレティアナはレティアナで、王女様とか、国とか、覚えるのもごめんあそばせ! って感じだったもん。

 
 レティアナは急にキッと私を睨みつけて、瞳の奥を鈍く光らせた。

「アオイのせい。アオイのせいだから!」

 いやぁ、それは違うんじゃないかなぁ。私のせいというのは。

「私が王子になったら、アオイをお嫁さんにしようと思ってたのに」
「ブホォッ」
「きゃっ、アオイ大丈夫?」

 いや、大丈夫じゃない。まったく。全然。

 口元を片手で押さえて唖然とレティアナを見る。

「え……レティアナ、王子様だったの?」
「何言ってるの、アオイ。私は第四王女よ。アオイも知ってるでしょ〜」

 キャッキャッと笑って、レティアナが猫みたいにじゃれついてくる。
 え、待って、ぜんぜん分からない。私が変なの? 異世界ジョーク? チラッとバンを見る。ムスッとしたまま外を見ていた。

「えっと……お、女の子、だよね?」

 レティアナはかわいい目をぱちくりと瞬いて、ニコリと笑った。キレイな完璧な笑顔で。

「もちろん」

 その顔を見て、私は瞬時に察した。

 これはワケありだ、と。

「そ、そうなんだ。大変なんだね。アハハッ……あ、そうだそれより、私、会社に──」

 言いかけて、不意に、車のバックミラーに映った青い瞳と視線がかち合った。
 クスリと、面白がるように細くなる青。ヒュッと、背筋がざわついた。

 まさか、と、イヤーな予感が全身を駆け抜けていく。

 そういえば、魔法だのなんだのと、ペラペラ喋ってるけど、この車の運転手って……。

 私はそぉっと、運転席に近づいた。流し目にこちらを見ていた、気だるげな青い瞳と視線がかち合う。
 ニコリと、青い目が優雅に微笑んだ。

 
「どうも、お久しぶりですアオイ」

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