【お知らせ】1/15 転生マーメイド第一話改稿しました
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12 王都

「おおお!」

 右を見ても左を見ても人、人、人。人の波に埋もれそうになりながら、エイリーは街を歩く人を見た。服も、持ち物も、田舎者とはまるで違う。歩くたびにいい匂いが漂って来そうだし、靴音も軽やかで、羽でも生えているのかと錯覚しそうだ。

「港町もすごかったけど、やっぱり王都は違うね」

 港町が爽やかな海の街なら、王都は煌びやかな宝石の街だ。
 石畳で整備された道。レンガを積み上げた店が建ち並び、ショーウィンドウから覗く、とっておきの商品たち。指輪にネックレスに髪飾り。パンや焼き菓子にチョコレート。右を見ても、左を見ても、エイリーをワクワクさせるものばかりだ。

 エイリーはカバンの中からお財布を取り出して、中身と相談する。王都の物価は高いと噂だ。エイリーの手持ちで何とかなるだろうか。

「金の心配ならしなくていい」
「……え?」

 エイリーはお財布を開いたまま顔を上げた。

「国から支給されるし、俺もそれなりになら持ってるよ」
「そうなの?」
「そうなの。だから遠慮せずに見ればいい」

 そういえば、聖女には報奨金が出ると、村に来ていた兵士たちが言っていた気がする。
 エイリーはお財布をポケットにしまうと、どこに行こうかと街の地図を広げた。
 地図と街並みを見比べ、たくさんの店に目移りしていると、ドンっと人にぶつかってしまう。

「す、すみません」
「気ぃつけろ!」

 頰に傷のある怖そうな男に睨まれて、エイリーはびくりと肩を震わせた。弾んだ気持ちは少しだけ萎み、浮き足立つ気持ちが霧散した。

「大丈夫か?」

 セスが人の波からエイリーを遠ざけるように手を引く。

「大丈夫! でも人が多いからあれだね。気をつけないとぶつかっちゃう」
「昼間は特に活気があるからな。はぐれたらその場を動くなよ」
「子どもじゃないんだから」
「俺から見たら子どもだよ」

 セスが小さく笑う。
 確かに、セスから見たら赤ん坊のようなものかもしれない。それでも少し複雑だ。

「行きたいところあるか?」
「うーん、セスはよく街に行くの?」
「よく行くってほどじゃないよ。インクや紙がなくなったときは城でまとめて買ってたし」
「そうなんだ」
「エイリーが家に来るようになってからは、たまに焼き菓子買ったりしてたかな。どんな顔するか見るのが楽しくて」

 セスがおかしそうに目を細めた。
 エイリーの村では、焼き菓子やケーキはそうそうお目にかかれるものではない。それが、セスの家に行くと手品のように甘いものが出てきたから、それ目的で行っていたのも、ほんの少しだけある。
 でもまさか、王都でわざわざ買っていたとは。エイリーは図々しくありついていた昔の自分が、ちょっとだけ恥ずかしくなった。

「いっぱい食べて、ごめん……」

 頬をうっすら染めながらそう呟くと、セスが不思議そうに首を傾げる。

「エイリーに食べさせたくて買ったんだから、食べてもらえなきゃ困るな」

 さも当たり前のように言うのだからタチが悪い。
 だって、それじゃあ、まるでエイリーが家に来るのを待っていたみたいな言い方だ。

「セスはずるい」
「うん?」
「こういうのを悪い男って言うんだ。父さん言ってた」
「……なんの話だ?」

 しきりに首を捻っているセスからふいと顔を背けて、エイリーは自分たちの周りに人がほとんどいないことに気がついた。
 まるく円を描いて、一定の距離を取ってチラチラとエイリーたちを見ている。

 はじめ、エイリーは自分が聖女だからなのかと思った。
 けれども、よくよく考えてみれば、エイリーが聖女だと知る人がいるはずがない。右手の甲にあるあざのことを知っていたなら、話は別だが。

 少し耳をすましてみると、エイリーたちを見ては何かをささやいている人たちは皆、セスのことを話していた。

「不思議使いよ」
「大賢者って言っても、何してるかわかったものじゃないわ」

 あまり、いい噂話ではなかった。
 エイリーはむっとして口を尖らせる。文句の一つでも言ってやろうと思った。けれども、エイリーの行動を見透かしたように、ぐっと腕を引かれて阻止される。
 エイリーは首だけで振り返る。エイリーの腕をつかんだまま、困ったように笑っているセスがいた。

「気にしなくていいよ。そういうものだから」
「だって……っ」
「いいよ。いつものことだ。エイリーは、不快かもしれないけど」
「私は、そういうんじゃ……」

 ない、とハッキリ言えなかった。
 セスが悪く言われるのが嫌なのに、当のセスは気にしていない。
 なら、セスを悪く言われたくないというこの気持ちは、セスのためのものなのか、エイリーのためのものなのか。
 エイリーにも、よくわからなかった。

「私は、セスを悪く言われたくないだけだよ」
「エイリー、世の中にはどうしようもないことだってある。全ての人にわかってもらおうなんて夢みたいなこと、思っていないよ」

 諦めてしまっている人の顔だと思った。たくさんの夢を見てきて、そうしていつしか、夢を見ることすら忘れてしまった、そんな顔。
 エイリーはぐっと唇を噛んで想いをやり過ごす。

「ほら、そんな顔してないで、王都を見たいんだろ?」
「……うん。セスのせいでムカムカするから甘いもの食べる」
「……俺のせいなのか?」
「セスのせい」

 エイリーは大きく頷いて歩き出した。エイリーとセスが歩くたびに、何事かと人が見つめてきて、そうしてやっぱり一定の距離が開く。

(セスは、いつも王都でこんな思いをしてきたの?)

 目立つ、銀色の髪。それだけならまだしも、セスの顔はとにかく人目を引く。気だるげな瞳は色気があるし、すっと通った鼻も、薄い唇も、彫刻になるために生まれてきたかのようだ。過ぎた美貌も、完璧すぎるからこそ恐ろしく見えるのかもしれない。

 エイリーはちらりと横を歩くセスを見た。どうひっくり返っても、この街で一番の美しさを持っている。エイリーが横に並ぶのがおこがましいくらいだ。
 じっくりとセスの顔を眺めていると、セスがエイリーの視線に気づいた。

「どうした?」
「セスの顔って、世界で一番美人かなって」
「は? 何言ってるんだ?」
「セス鏡見たことないの? 自分の顔見て、今日も綺麗だな、ふっ、って思わない?」
「……頭大丈夫か」

 セスが痛々しいものを見るようにエイリーを見た。

「外見なんてどうでもいいだろ?」
「そうかなあ。外見も大事だよ」
「そうか? なら俺は、エイリーのほうが良い……んんっ」
「え? なに? いい? セス私の顔好きなの?」
「あー、いや……どうかな」

 口元を片手で覆って、うっすら目元を赤くしているのを見て、エイリーは目をまるくした。

「えっ、ほんとに? うそ、セスの目ちょっとおかしいよ」
「……もっと他に言うことないのか?」
「毎日その顔見てると美的感覚おかしくなるとか?」
「いや……もういい」

 セスが不機嫌そうに眉を上げたのを見て、エイリーはギョッとした。

「え、怒ったの?」
「エイリーのせいでムカムカするから甘いもの食べる」
「それ、さっき私が言ったセリフだよね」
「そうだよ」

 セスは小さく苦笑いして、くいと顎でひとつの店を示した。エイリーは素直に視線を向けて、顔をほころばせる。

「わっ、すごい。宝石みたい」

 キラキラとした飴細工のお店だった。光に当たって色鮮やかに輝く。赤、黄色、青に、白、緑。

「これならいつでも食べれるし、買っていこうか」
「うん!」

 店先に並ぶ色とりどりの飴細工を見ては、とろけるような甘さを想像して口に唾液が溜まる。透明な瓶に詰まった飴の山を山を買おうとして、エイリーはピタリと止まる。

「あ、れ……」
「どうした?」

 そわそわとカバンやポケットを漁るエイリーを見て、セスが不思議そうに問いかけた。
 顔を真っ青にさせて、エイリーは顔を上げる。

「どうしよう、セス。お財布が、ない」

12 スキルって、どう使うんですか?

「アメリア?」
 

 ひきつった顔をしていたのか、エルクが不思議そうに首を傾げながら見つめてくる。
 キラッキラした紫の瞳。戦いとは無縁そうな美しい容姿をしているのに……16歳でレベル58……っ。
 つまり、死の大地はそれだけ恐ろしいところ。
 レベル2の私が足を踏み入れた瞬間、人生は終わる。

 これは、もうハッキリ言っておかないと。
 私の命がかかっている。

 
「え、エルク、様」
 

 そう呼ぶと、エルクは眉を寄せて、ムッとした顔をした。
 おっと、こんなことで機嫌を損ねられてはたまらない。私はコホンと咳払いをした。

 
「エルク」
 

 そう呼ぶと、寄っていた眉間のシワはなくなり、代わりにパッチリとした紫の瞳が見つめてくる。
 ほんと、仕草が大袈裟というか、かわいいというか。まあ、この際なんでもいい。

 
「大変申し上げにくいのですが」

「うむ」

「私はまだ、レベル2なんです。まだ北の大地に向かうのは難しいかと」
 

 これはつまり、初期レベルでラストダンジョンに向かうってことでしょう? 間違いなく、即死ね。結界があっても即死。

 
「なんだ、案ずるな。私が守る」

「エルク……」
 

 キラキラと輝いて見える、見えるけれどもっ。

 信用できなぁぁぁい!!!!

 
「それに、マルクもいる」

「エルク様ぁーーー!!」
 

 大きく手を振りながら、エルクにラブコールを送るマルクを見た。

 確かに、マルクは強い。
 でも、あの男はエルク命だ。エルクと私の二人がピンチになった時、どう考えてもエルクの方が勝算がありそうだとしても、あの男は絶対私を見捨ててエルクを助ける!
 私にはわかるわ。

 自分の身は、自分で守るしかないとっ!

 
「旅立つ日は決まっているのでしょうか」

「なるべく早く立とうとは思っている」

「そうですか……」
 

 今の結界持ちが長くないんだっけ。それは急ぐのもわかる。けど。私はまだ、死にたくはないの!

 
「エルクさ……エルク。三日、三日だけお時間をいただけないでしょうか」

「うん? 何をするんだ?」

「いえ、少し、旅立ちの準備を……」
 

 エルクは顎に手を当て、何やら考え込んでいたが、やがて顔を上げてキッパリとこう言った。

 
「私も共に行こう」

「………………」
 

 あなたが一緒だと困るから、時間をくれと言っているのですが?

 
「エルク、レディーには身支度というものが必要なのです。教わりませんでした?」

「う、む……そうか……」
 

 エルクは目に見えてしゅんとした。耳とか尻尾とかが付いていたなら、力なく垂れているだろう。
 エルクはトボトボと歩き、マルクの元へ行くと、これまでの経緯を話していた。
 自分はついて行きたいけれどどう説得したらいいか、を力説しているのが丸聞こえよ。まったく……。
 

「そういうことなら、お嬢、ご自由に」
 

 マルクは豪快な笑顔を浮かべ、グッと指を突き出してきた。俺は女心のわかる男だぞ? キラーン、と言っているのが透けて見えるようだ。家臣は上の者に似るのかしら……。考えていることが丸見えだ。
 まあ、今回はありがたいに超したことはない。

 意外なところから裏切りにあったエルクは、少し呆然として、やがてガックリと肩を落とした。

 
「アメリア……達者でな……」

 
 まるで永遠の別れね。大袈裟な。

 
「餞別をやろう……持って行くといい」
 

 エルクはポケットから小さな小瓶を取り出すと、私に差し出してくる。
 なんだろう、これ。液体? 緑色をしているけれど……。怪しい。
 ジーッと瓶を見ていると、マルクがコホン咳払いをした。

 
「お嬢、それはエルク様の治癒の力が込められている特別製だ」

「えっ!」
 

 治癒の力が?
 なんてチートアイテムっ……! ありがたく受け取っておこう。
 私はチートアイテムをカバンの中にしまった。

 
「あ、それで。一つ、聞いておきたいのですが」

「うむ、なんでも申せ」

「スキルって、どう使うのでしょう?」

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