01叶わない恋を知った日

 

◆◆◆

 小さな国の中で一番大きな建物。ファルメリア王国、王城。

 壁は白銀はくぎんのように輝き、屋根は晴天の空のように青い。

 白い城壁が囲う、普通の家が軽く数十軒は収まってしまいそうな広大な庭園には、ピンク、青、黄色に白、心を癒すような淡い色の花が、その美しさを見てくれと主張するかのように、堂々と咲き誇っていた。

 その行儀ぎょうぎよく整列した花々で埋めつくされる庭園に、やや年季の入った木製ベンチがひとつ。大の大人が三人も腰かければたちまち壊れてしまいそうなそのベンチに、まだ年端としはもいかない少女と、青年と変化しつつある黒髪の少年が並んで腰かけていた。

 少女は落ち着かなそうに両の指先を絡めていじり、やがて意を決したように顔をあげて、んだ黄金の瞳で、真っ直ぐに少年を見つめた。

「あのね、ジーク」

「うん? どうしたんだ? ティア」

「あのねっ、ティアね、大きくなったら……お、大きくなったらっ、ジークのお嫁さんになりたい!」

 まあるく大きな金色の瞳に、バラ色のほっぺた。にごりのない黄金の髪はきれいに波打ち、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

 少女の熱のこもった瞳を受けた少年は、一瞬面食らったような顔をして、すぐに子どもの戯言たわごとだと納得し、苦笑いを浮かべた。

「はは、なにを言ってるんだ。ティアはお姫さまだろ?」

 言い聞かせるように、少年はそう口にする。

「ティアにはもっと、ふさわしい人がいる」

「ふさわしい、って、なに?」

「そうだなぁ……隣国の王子様とか、歴史ある貴族とか」

 それを聞いた少女は、ムッとしたようにふくれっ面をした。

「ジークもエライひと、って聞いたもん」

「……誰に聞いたんだ、そんなこと」

「おじさま!」

「……えらいって言っても、俺は次男だからなぁ。そもそも、王家には及ばないよ」

「そうなの?」

「ああ」

「でも、ティア、ジークのお嫁さんになりたい!」

「はは……ティアはまだ5歳だろ? そういうのは、ティアが大きくなってからな」

 なだめるように、ふわりと小さな頭に大きな手がのる。少女はしばらく黙りこんで、口を真一文字に結んだまま、ジッと地面を睨んだ。

「ティア?」

「じゃあ、ティアが大きくなったら?」

「そうだな……。あと十年ぐらいしたら、また考えるよ」

「ほんと!?」

 パッと、少女の瞳が輝く。弾かれたように顔をあげ、満面の笑みで青年に向かって小さな小指を突き出す。

「……小指?」

「小指と小指を絡めるの! 遠い国の約束のしかたなんだって!」

「……ああ、妖精たちに聞いたのか」

「うん! はい、ジーク小指!」

「……しかたないな」

 苦笑いをして、青年はそっと少女の小さな小さな小指に、自分の小指を絡ませた。

「約束ね!」

 ドレスで着飾った少女の前に、ひとりの青年が片膝をついてこうべを垂れていた。

 黒の軽装ながらも腰には剣が下げられ、その姿はまさしく、主人に忠誠ちゅうせいを誓う騎士だった。

「メルティア姫。本日よりあなたにお仕えさせていただく、ジーク・フォン・ランストと申します」

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