07アル・ピヴォワ・ファルメリアという男

 ファルメリア王国王家、唯一の血を引く男児、アル・ピヴォワ・ファルメリアは、超がつくほどのシスコンだった。

 シスター・コンプレックス。
 通称、シスコン。

 それは、アルが6歳の時に、唐突とうとつにやってきた。

 予定されていた月日よりも、ふた月も早く、アルの前にやってきた、妹。
 はじめて見たその顔は、あまりにもしわくちゃで、アルは「不細工ぶさいくだね」と、真顔でそう口にしたほどだ。
 だけど同時に、それはあまりにも小さく。
 アルは、なんとも言えない不思議な気持ちになった。

 6歳ともなると、ある程度ていど自我じがが芽生える。
 加えて、アルは、どこか抜けている父と母の血を本当にいでいるのかと疑いたくなるほど、頭がよかった。

 何を言えば、誰がどんな反応を返すか、予測ができる。あらゆるパターンを計算して、罠を仕掛ける。

 花の国と呼ばれるファルメリアには似つかわしくない男、それがアル・ピヴォワ・ファルメリア。

 自分の甘い顔を自覚しているアルは、それすらも利用し、気づかれないように人を動かし、自分に優位になるように行動してきた。

 その妹として誕生した、メルティア・ピヴォワ・ファルメリアは、アルとは正反対の性格をしていた。

 花の国の姫君にふさわしい、ふわりとした空気と、花のような笑顔。
 そしてなぜか、メルティアはアルによく懐いた。

 甘い顔をしていることは自覚していた。
 だが同時に、自分の性格が腹黒いことも、言動が優しくないことも自覚していた。

 メルティアはふわふわとして、打たれ弱そうなのに、意外にも強靭きょうじんなハートで「アルにぃアルにぃ」と後ろをくっついてくる。

 どれだけ冷たい言葉を投げかけても笑顔を向けてくるメルティアに、アルが陥落かんらくさせられるのも、当然といえば当然だった。

 自分のペースを乱されることを嫌うアルが、横を歩くメルティアに速度を合わせてしまうほどには、アルはシスコンだった。

「アルにぃっていろんな国に行ってるよね。いつも何してるの?」
「まあ、いろいろだよ。視察とか」
「視察?」
「そ。この国は花みたいにのほほんとしすぎて、情報がなさすぎるからね」
「情報?」

 メルティアは不思議そうに目をまたたいて首をかしげた。

 一国の姫が、諸外国しょがいこくのことどころか、自国のことも知らない。
 通常ならばありえないことだが、アルはそれでいいと思っている。

「ティアは知ってる?」
「なにを?」
「この国が、異常だってこと」

 メルティアは不思議そうに、意味を考えるように、何度も何度も目をまたたいた。

「そう、なの?」
「まあ、誰も国から出ようとしないからね。知らないのも無理ないよ」
「アルにぃは、それを知りたかったの?」
「それを知りたかったかと言うと、違うかな。それは副産物」
「副産物?」
「そ。僕が本当に知りたかったことは──」

 アルはゆっくりと閉口して、フッと口もとだけで笑う。

 そして、すっかりと大きくなり、輝くような美しさを手にした妹、メルティアを横目に見た。

「アルにぃ?」
「妖精について、だよ」

 メルティアは大きな目をキョロキョロと動かし、首をかしげる。

 大きくなったメルティアに、まだ幼いころの姿を、アルは重ねる。
 おぼつかない言葉を話すようになったメルティアが、空を見ては何かと話しているのに気づいた時は、さすがのアルも肝を冷やしたものだ。

『ティア……? 誰と話してるの?』
『あのね、おともだち』
『………………』

 そう思った時のことを、アルは今でもよく覚えている。

 その日から、滅多めったに人が寄り付くことのない書庫にこもっては、子どもが読むようなものではない文献ぶんけんやら医学書やら古事記やらを読みあさった。

 そしてアルは、まだ幼いながらにして、この国がいかに平和ボケをしているかを知ってしまったのだ。

「アルにぃ?」
「ティアは僕が守るから大丈夫だよ」

 ふわりと小さな頭をなでると、メルティアは気持ちよさそうに目を細める。

「アルにぃがいたら、なんでも大丈夫な気がするよ」

 そんなことを口にするメルティアは、自分の部屋の方を見て、驚いたように目を大きくした。
 アルも釣られるようにメルティアの視線を追って、顔をしかめる。

 メルティアの部屋の前には、メルティアの専属護衛を任されている、ジークがいたからだ。

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