6/3 中編新作公開しました

07

 放課後、クラスのホームルームが早く終わったから、依緒ちゃんを待つ間に、一年生の教室が並ぶ二階に向かった。
 階段を下りていると、パラパラと帰り始めている一年がいた。
 みつるちゃん、何組なんだろう。聞きそびれちゃった。
 一年生の階をウロウロしていると、上級生が珍しいのか、チラチラと見られた。上履きの色でバレちゃうもんね。ひょいとクラスをのぞいてみたりしたけれど、見つからない。

 うーん、満島くんの言ってたヤバいこと、っていうのも特になさそうな気もするけど、どうなんだろう。

 チラチラと私を見てた一年生の子たちに声をかけた。

「ごめんね、ちょっといいかな」
「は、はいっ! なんでもお聞きくださいっ」

 そんなに緊張しなくてもいいのにと思いながらも、知らない先輩に声かけられたら確かに緊張しちゃうかもと苦笑い。

「あのね、高宮みつるちゃんってどのクラスかな?」

 サッと、一年生二人組の顔色が変わった。
 ふわりと、少しだけあの、甘い嫌な香りがした。

「……え、な、なにか用ですか。高宮さんに」
「えーと、用……うーん、どのクラスかなぁって」

 特に用はないんだよね。
 一年生の子たちが顔を見合わせた。

「高宮さんは、三組です。もう、帰られたかと……」
「えっ、そうだったんだ。ありがとう」

 もう帰っちゃってたのかぁ。それは見つからないよね。

「もしかして、上級生にも噂回ってるんですか?」
「え、噂?」

 首をかしげると、その子はしまったというバツの悪そうな顔をして、首をふるふると横に振った。

「なにかあるの?」
「いえっ、七宮先輩が気にするようなことではっ」
「あれ、私のこと知ってたんだ」
「えっ、それは、まぁ。有名ですから」

 みつるちゃんも似たようなこと言ってたけど。なんだっけ、そうだ。信者を作ってるとかなんとか。信者って、それ宗教? 我が家は無宗教だよ?
 神社にお参りはしてるけれどね。
 もしかして、私が毎日毎日お参りしてるのが噂になってて、それで七宮家は怪しい宗教に入ってる、とかなっちゃったのかなぁ。それで私が宗教の勧誘してるとか。うわぁ、今朝の柊さんみたい。誤解、誤解を解かないとっ

「えっとね、ウチは無宗教だよっ。勧誘とか全然っ、してないよっ」
「え。なんの話しですか?」
「えっ」

 あれ、違った?
 じゃあ、やっぱり弓道?

「う、ううん、なんでもないの。弓道、もっと頑張るね」
「え、あ、はい。応援してますねっ」

 一年生が目をキラキラさせた。わぁ、かわいい。なんだ、やっぱり弓道で知ってたんだ。みつるちゃんが特殊だっただけかな。

「ちょっと、ゆづーっ!」

 ノシノシ歩きながら、依緒ちゃんが一年生の階に乗り込んできた。

「きゃっ、不知火先輩っ」

 すると、その場にいたたくさんの一年生たちがきゃあきゃあと声を上げた。
 あ、れ。もしかして、私が有名って、『私が』有名なんじゃなくて、『依緒ちゃんと一緒にいる私が』有名ってこと?
 わわっ、なにそれ、恥ずかしいっ。

「あれ、なにこの子たち」
「不知火先輩っ。握手、握手してくださいっ」
「いやよ。私の手は安くないの」
「きゃあっ、カッコイイ!」

 うう、いいもんいいもん。私だって、いつかとびっきりの美人になるもんっ。頑張るもんっ。

「で、なにしてたのよ、ゆづ」
「えーと、みつるちゃん、どのクラスかなーって」
「三組。一年三組、高宮満。成績優秀、入試は五位だったそうよ。部活は帰宅部。よく図書室に居るらしいけれど、最近はいないそうね。学校が終わるとすぐに帰宅してるそうよ」
「……え。く、詳しいね」

 依緒ちゃんはフッと、唇を釣りあげた。

「朝飯前よ、こんなもの」

 うわぁ、カッコイイ。しかも綺麗。ああ、通り過ぎる一年生が依緒ちゃんに釘付けだよ。気持ちわかるなぁ。私も絶対見とれちゃう。

「それより、パフェ行く約束でしょ! 目を離すとすーぐうろちょろして」
「デラックスパフェだっけ」
「スペシャルデラックスパフェよ」

 あんまり変わらないよ。と心の中でツッコミつつ、一年生たちにお礼を言って学校をあとにする。

 校門を出ると、門の周辺に人だかりができてることに気づいた。

「なぁに、不審者?」
「うーん、それにしては女の子が多いような」

 通り過ぎようとして、女の子たちに囲まれている人が視界に入り込む。「あっ!」と声を上げてしまった。
 中心にいた男の人が、私を見た。

「柚月葉」

 人をかき分けてやって来たのは、朝ぶつかった変な人――退魔師の柊さんだった。

「え、ど、どうされたんですか?」
「ちょっとゆづ、なにこの男」
「あ、えっと、今朝の――」

 依緒ちゃんが目を眇めて柊さんを見た。

「柚月葉、少し話せるか?」
「え、いいですけど……」

 依緒ちゃんの目が、こわい。

 そそくさと離れて、話し声が聞こえない距離で柊さんと話す。

「助かった。囲まれて困ってたんだ」

 柊さんが眉を下げて頼りなく笑う。
 こんなにかっこいいと、あんなに騒ぎになっちゃうんだ。かっこいいと言うのも大変らしい。

「急に悪かった。柚月葉の制服がこの学校のだったことを思い出して、待ってたんだ」
「わ、私をですか?」
「ああ」

 な、なぜ?
 疑問を頭に浮かべながら、チラリと柊さんを見る。

「君は、妖や神を信じるか?」
「えっと、我が家は無宗教で……」
「あーいや、いい。なら、ちょっと聞きたいことがあるんだ。この子たちを知ってるか?」

 そう言って、柊さんは三枚の写真を取り出した。どれも綺麗な子。でも見たことないなぁ。あ、ウチの制服だ。何年生だろう。

「いえ、私は知りません」
「そうか。柚月葉は二年生?」
「は、い。そうですが……」
「学年が違うからか……」
「え、と。その子たちが、なにか?」

 不審者、には見えないけれど、なにか調べてる?
 柊さんはちょっと怪しい退魔師だし――退魔師って、なんだろう。

「あー、この子たち、は――いや、なんでも。素質あり、かと思ったんだが巻き込むのはダメらしいな。後ろがなかなかの迫力だ」

 後ろ?
 と思って振り返ると、依緒ちゃんがジロリとこちらを睨みながら待っていた。

「もしもこの子たちの周りで変なことがあったり、なにか知ってることがあったりしたら、教えてくれ。連絡先は――携帯持ってるか?」
「え。持ってます、けど」
「連絡先教えて欲しいって言ったら、嫌か?」
「いえ、構いませんけど。迷惑メールとか送らないでくだされば」
「ははっ、安心しろ。無駄な連絡は好まない」
「でしたら、別に」

 言いながらポケットから携帯を取り出す。電話番号を教えて、柊さんのプライベート用だと言う連絡先も教えてもらった。

「あの、どうして、私に?」
「ん? ちょっと、興味があってね」

 柊さんはそう言って、私の後ろを見ながらかすかに笑った。

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