6/3 中編新作公開しました

08

 柊さんと別れて、依緒ちゃんの元へと向かう。
 依緒ちゃんが手を突き出した。

「え、な、なに?」
「連絡先、交換したでしょ」
「し、したけど、この手は?」
「怪しい」
「え?」
「あの男、怪しいわ」

 どういう理屈だろうと思いながらも依緒ちゃんを宥め、デラックスパフェのお店に向かう。
 新しくできたというそのお店は、女の子が好きそうなかわいい白のアンティークぽい外観をしていて、中はダークブラウンの木で作られたテーブルと椅子が並んでいた。テーブルの上には、白地に小さなピンクの花柄のテーブルクロスに、アンティークブックのようなメニュー。

「わぁ、かわいい」
「ふふ、ゆづ好きでしょ、こういうとこ」

 確かに好きかも。和風なのも好きだけどね。

「ゆづなに食べる?」
「うーん、依緒ちゃんパフェでしょ? 私はこのチーズケーキにしようかなぁ」

 あ、でもココアフロートも美味しそう。
 メニューを見ながら「んんっ」と悩んでいると、奥の席からケタケタと楽しそうな笑い声が響いた。依緒ちゃんの顔が、ちょっと歪む。

「け、ケンカしないでね」
「しないわよ。うるさい虫がいるなーと思っただけよ」

 こ、声!
 声大きいよっ!

 聞こえちゃったんじゃないかとヒヤヒヤしてると、ピタリと楽しげな笑い声は止んだ。けど。

「ああ゛? あたしらにケチつけようっての?」

 う、わわっ。もう、やっぱり聞こえちゃってた。

 依緒ちゃんが好戦的に唇を釣りあげて、振り返る。

「あら、聞こえちゃった? ごめんなさい。でも、同じ学校の先輩として、恥ずかしいから。つい」

 えっ! と思って奥を見る。同じ制服。あ、あれ、なんか見覚えあるような。

 て、ああっ。あの子たち、柊さんが見せてくれた写真のっ。

「――っ、不知火依緒。じゃあ、そっちにいるの……」
「ねぇ、ゆづ? ゆづもそう思わない?」
「ええっ! う、うーん。確かにお店では、もうちょっと静かにした方がいいかな。迷惑だからね」

 にっこりと笑ってちょっとだけ窘めると、その子たちは静かになった。
 あれ、物分りいい子たちだなぁ。何年生だろう。

「ねぇ、何年生?」
「……」

 あ、あれっ、返事がない。

「えーと、一年生かな? カバンのライン、緑だもんね」

 サッとカバンを隠された。
 ええ、もう見えちゃったよ。

「一年生ならさ、みつるちゃん、知ってる?」

 顔色が変わった。あれ、知ってるのかな。でも、なんだろう。震えてる? みつるちゃんってもしかして、怖い子? うーん、そんな感じしなかったけどなぁ。

「高宮みつるっていう名前なんだけど――」

 その子たちはガタッと立ち上がった。

「ええ、どこ行くの? あ、みつるちゃんのこと知ってたら、仲良くしてあげてね。ちょっと、心配なんだ」
「……」
「暗い顔してたから、なにかあったのかなって。なんにもないと思うけど――一応、ね?」

 一年生三人組はお会計をすると去っていった。
 ……なんにも、返事してくれなかった。
 みつるちゃんって、何者?

 ポカンと一年生を見送っていると、依緒ちゃんがおかしそうに笑いだした。

「え、依緒ちゃん? どうしたの?」
「ゆづ、あんたやっぱり最高よ。ナイスアシスト」
「え、な、なにが?」
「なんでもないわ。あ、ゆづチーズケーキとココアフロートね。チーズケーキは分けっこしましょ。すいませーん」

 依緒ちゃんよく私がココアフロートとチーズケーキで迷ってるのわかったね。でもさ、それ、私のお金だよね?

 けっきょく、甘い誘惑には勝てずに、私はココアフロートとチーズケーキを頬張る。う、美味しい。なにこれ、チーズすっごい濃厚!

「ゆづ、ほらパフェも食べなさい」
「うんっ、いただきますっ」

 パフェのクリームもたまらないっ。美味しいっ。甘いけど、くどくない甘さでペロリと食べれちゃう、ちょっと怖いパフェだ。

「ねぇ依緒ちゃん、あの子たちのこと知ってる?」
「まぁね」
「あれ、そうだったの? どんな子?」
「そうねー、一言で表すなら、ゆづとは相容れない存在って感じかしら」

 ちょっと難しくて、なに言ってるかわかんないよ。

「釘さしたから、大人しくなるでしょうけど、それがどう転ぶかしらね」
「どういう意味?」
「んー、ひみつ」
「ええ、依緒ちゃんのほうが隠しごと多いよ」
「まだ地に足固まってないのよ。急ごしらえだもの」
「どういう意味?」
「ひみつ」

 これはもうなに言ってもだめだと思って、苦笑いしながら依緒ちゃんのパフェを食べた。このくらい仕返ししても、いいでしょ?

 お腹が満たされて、依緒ちゃんの剣道の話とか、私の弓と話とかして、暗くなり始めて帰宅路に着く。
 家の前でバイバイして、玄関を開ける。

「ただいまー」
「おー、柚月葉おかえり」
「お兄ちゃん帰ってたんだ」

 居間からひょいとお兄ちゃんが顔を出した。

「夕飯ならにーちゃんが作っといたぞー」
「え、ありがとう。今日部活ないから私作ってもよかったのに」
「依緒から柚月葉を借りるって連絡来たからなー」

 依緒ちゃん、いつの間に。

 靴を揃えて、そのまま二階に行こうとすると、手招きされた。

「どうしたの?」
「いいから、ちょっと来い」

 不審に思いつつも、居間の掘りごたつに向かいようにして座る。

「柚月葉、今日あったことを一から話せ」
「えっ、なんで。やだよ」
「いーから。にーちゃんのいうこと聞けないのかー?」
「ぷ、プライバシーの侵害だよ」
「いーからいーから。ちょっとカバンの中見せろ」
「ええっ、待って、お兄ちゃん!」

 勝手にカバンの中を漁られた。もう、自分勝手すぎるよ。
 ムッとしていると、お兄ちゃんは迷うことなくひとつの紙――柊さんの名刺を手にした。

 わわ、それっ。退魔師とか、怪いことがくっきりと書いてあるのにっ!

「柚月葉、コレは?」

 テーブルの上に、名刺が鎮座する。う、気まずい。

「説明できるな? 柚月葉」
「……説明もなにも、もらっただけだよ」
「この怪しい胡散臭さ満載の退魔師、を?」
「それは、私も怪しいなぁと思ったけれど、変な人じゃない――うーん、ちょっと変だけど、大丈夫だよ」

 お兄ちゃんがため息を吐いた。

「退魔師、ねぇ……」
「退魔師って、なんだと思う?」
「そりゃ、妖とか変なものを払うんだろ」
「えっ、お兄ちゃん、ウチって無宗教だよね?」
「なんの話してんだコラ」

 だって、そんな当たり前みたいに妖とか言うから。

「……これ、ホンモノか? いや、でも――ゆづに目を付けたのか。吉と出るか凶と出るか……微妙だな」

 名刺を見ながらブツブツと呟いてるお兄ちゃんを放って、二階に上がる。制服を着替えて、下に戻ると、またお兄ちゃんは名刺を見ていた。

「お兄ちゃんごはんにする?」
「柚月葉甘いものたっぷり食ってきたんだろ?」
「うーん、でも甘くないのなら食べれそう」
「太るぞ」
「運動するもん」

 べーっと舌を出して台所に行く。お鍋の蓋を開ける。カレーだった。美味しそう。あ、お腹すいてきた。
 グツグツと温め直していると、お兄ちゃんが横に立った。ご飯よそってくれるみたい。

「柚月葉、変なことがあったら、知らせろよ」

 お兄ちゃんを見上げる。

 それ、柊さんにも言われた気がするよ?

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