6/3 中編新作公開しました

09

 日課のお参りをして、朝練へと向かう。
 ひたすら無心に矢を放って、予鈴の前に片付けて教室に向かおうとすると、見知った顔を見つけた。

「みつるちゃん?」

 二年生の下駄箱前に寄りかかっていた三つ編みの女の子が顔を上げた。

「先輩、朝練お疲れ様です」
「ありがとう。どうしたの? 誰か待ってた?」
「先輩を待ってました」

 目を瞬く。靴を履き替えながらみつるちゃんを見る。

「昨日、なにかしましたか?」
「え、なにかって?」
「……、一年生の教室には来たんですよね?」
「あ、うん。特に用事はなかったんだけど、そういえばみつるちゃん何組なのかなって」
「三組です」
「うん、聞いたよ」
「他に何聞きました?」

 みつるちゃんの目が、じっと私を見た。探るように。

「え、と、なにも……なにか聞かれたくないことあった? ごめんね、一年生のことよくわからないから、みつるちゃんのクラスはどこか聞いちゃった」
「……、おかしいな。先輩じゃない?」

 みつるちゃんは口元に指を当てて、じっと何かを考え込む。

「あ、でも」
「なにかしたんですか?」
「したって訳じゃないけど、昨日喫茶店でね、この学校の一年生に会って。みつるちゃんと仲良くしてあげて――」

 ハッと口を閉じる。これじゃあ私、お節介おばさんだよ。いや、言ったけど。言ったけどね。でもなんか押し付けがましいというかっ、上から目線と言うかっ。

「あ、ご、ごめんねっ。よけいなことしてっ。そういうつもりじゃなくてっ、少し、気になって、心配というか、ううん、違うの。違くないけどっ、でも……ご、ごめんね」

 みつるちゃんが、目を丸くして、小さく吹き出す。

「ふふ、いいですよ。先輩がお節介なの、わりとみんな知ってます」

 あ、笑った。かわいい。

「お、怒ってない?」
「怒りませんよ。まあ、集めた証拠は切り札として持っておきますけど」

 なんかちょっと、物騒な言葉聞こえたよ?

「でも、どうして私が一年生のとこ行ったって知ってたの?」
「今日学校来たら、七宮先輩と知り合いなのかって、押しかけられて」
「え」

 なにそれ。私、宗教やってないよ?

「で、あいつら――ああ、いや、例の奴らもちょっと怯えてるんで、これは何かあったな、と」
「わ、私、宗教とかしてないからね。勧誘とかっ。ウチは無宗教だって、お兄ちゃんも言ってたからっ」
「なんの話しです?」
「え、だって、みつるちゃんが、信者がどうのこうのって」
「ああ。アレですか。……いや、信者になる気持ちもわかるなぁ、と」
「……なんの話し?」
「いいえ。連絡先、交換しません?」

 みつるちゃんがカバンから携帯を取りだした。
 目を丸くしてそれを見つめて、慌てて私もポケットから携帯を取り出す。

「私、けっこう頼りになると思うんですよね」

 みつるちゃんが怪しく笑った。

「えーと、頭良さそうだよね。依緒ちゃんがね、参謀タイプって言ってたよ」
「参謀――悪くないですね。好きですよ、そういう、暗躍するの」

 最後、ちょっと物騒だけどね? 変なことしたらダメだよ?
 みつるちゃんと連絡先を交換して、予鈴が鳴ったから、二人して慌てて教室に駆け込んだ。

「おー、七宮。今日も遅刻ギリギリ」
「満島くん、おはよう」
「おはよう。昨日、一年の教室行ったろ。一人で行くなって、俺言わなかったー?」

 ギクリと肩が揺れる。

「え、よ、よく知ってるね」
「いやぁ、まぁ、そりゃあ?」
「あ、一年生にね、友達ができて」
「おーおー、噂の七宮先輩は、さっそく一年生も引き込んだのか。すげぇな」
「なにそれ」
「男?」
「女の子だよ。みつるちゃんって言うの」

 満島くんがちょっと顔をしかめた。

「もしかして、高宮満?」
「え、そうだよ。よく知ってたね」
「いや、よく毎回毎回曰く付きを引き当てるなと感心してる」
「曰く付き?」
「や、なんでも」

 なんだろうと思ってると、先生が来て会話が途切れた。

 お昼休みに、みつるちゃんからメールが来た。
「昨日会ったの、この三人ですか?」って、三人の名前と顔写真付きで。「そうだよ」と送り返したら、「そうですか」と。なんだったんだろう?
 そこで、思い出して、柊さんに一応メールをした。「昨日言ってた三人と会いました」って。一年生みたいですと付け加えて。「そうか」とだけ返信が来た。連絡、いらなかったかな?

 授業が終わって、放課後。事件が起きた。

 悲鳴が響いて、怒号やなにかが割れる音。クラス中が固まった。机の上に置いたカバンを抱きしめて、キョロキョロと辺りを見る。

「な、なにかあったのかな?」
「や、わかんねぇけど、ヤバそうだな」

 ヒソヒソと隣の満島くんと会話をする。
 ホームルームをしてた先生が、厳しい顔をして「そこを動くな」と言って、教室を出ていった。途端に、ざわめき出す。

「なになに、悲鳴?!」
「ガラス割れる音したぞっ」
「不審者!?」

 飛び交う声にぎゅうとカバンを抱きしめる。
 ポケットに入れてた携帯が震えた。依緒ちゃんからだった。「教室にいる?」という文面に、「いるよ」と返す。「ちょっとまずいことになった」と返ってきて、ヒヤッとする。
 何が起きてるんだろう。まずいことって、なに?

 じっと携帯を見てると、教室の扉がガラッと開く。
 一人の男子生徒が、興奮したように顔を上気させて叫んだ。

「おいっ、一年生で揉め事らしいぞっ!」

 一年生?

「例の三人がいきなり逆上したって話だ。周りにいた生徒多数負傷。止めに入った高宮満って女子生徒が流血沙汰だって」

 さぁっと血の気が引いた。

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