ピッコマノベルズで『箱入りお嬢様は溺愛政略結婚』連載予定です!

33お友だちになりたくて

 しばらくすると、ルイスの仲間たちが集まってくる。

 どうやら街は無事らしい。大きなケガをした人もいないようだ。
 赤い目をして暴れていた動物たちは、とつぜん憑きものがとれたみたいに元にもどって、森の奥に帰って行ったらしい。

 よかった。
 一時はどうなることかと思ったけれど、だれも傷ついていない。

 レイヴンの面々が、自分たちの飛空船へのほうへと歩いていく。ルイスも立ちあがって、くるりと私をふり返った。

「リィル、は……」

 私は空を見た。
 日が昇りかけている。
 帰らないと。お兄さまがきてしまう。

「私は、ここで大丈夫です」
「……なら、送るよ」
「ルイスはケガをしていますし、お医者さまに診てもらってください」
「僕が送りますよ」

 人の姿になったベオがずいっと割って入ってくる。

 そういえば、ベオはこれからどうするのだろう?
 アノシシア族っていうのは、アクアバースに住んでいるの?

「僕、しばらくお世話になるつもりですし」
「ええ!? そうだったんですの?」
「もちろん」

 そうだったのか。私はかまわないけれど……。
 海の使族だってことも知っているし、お兄さまとも知り合いみたいだったし。なんだか積もる話もありそうだったし……。

 ルイスが私とベオを見比べて、首をかしげる。

「知り合いだったのか?」
「さっき森で知り合いました」
「……そうなのか」

 ルイスはなにかを言いたそうに口をひらいたが、大丈夫だと判断したのか、立ち上がる。

「アノシシア族の村に帰りたいなら、送っていくこともできるが、いいのか?」

 ベオの空気がピリッと変わった。
 警戒するような目でルイスを見ている。

「行ったんですか? あの場所へ」

 ルイスはなにかを多く口にすることはなく、ただ静かにうなずいた。

「へぇ、そういうことですか」

 ベオはルイスをなめるように見て、おかしそうに目を細めた。

「どうする?」
「僕はまだやることがあります」
「……やること」

 ルイスはチラッと私を見た。

「……リィルに関係あるのか?」

 私はギョッとした。まさか、海の使族だからと告げ口しないだろうな? 私は目からビームをベオに送る。ベオはひょうひょうと答えた。

「いえ。この人の家は裕福な家なので、腰かけにするつもりです」
「……いいのか、リィルは」
「へっ? だ、大丈夫です。ひとりくらい。それに、ベオはとってもかわいいですし!」

 プリティな顔をしている。毛もふわっふわでなめらかで、シルクよりも上等だ。
 ベオを枕にしたらとっても寝心地がよさそう。怒られそうだからしないけれど。

 ルイスはため息混じりの息を吐くと、私の頭をぽんぽんとなでた。「簡単に他人を信用しないように」というお小言とともに。
 珍しい。そんな小言を言うなんて。

 ルイスはレイヴンの仲間たちが歩いて行ったほうを見た。

 もう、行ってしまう?
 寂しさが駆けぬけたところで、私はハッとしてルイスを呼び止める。

「あ、あの、これ……」

 私は首にかけていたネックレスを外した。両手のひらの上にのせて、ルイスへと差し出す。

「それ……」
「ルイスのじゃないかって、思って。ルイスに助けていただいた日、上から落ちてきたんです。よく考えたら、ルイスしかいなかったと思って……ごめんなさい。返すのが遅くなって」

 ルイスは片膝をつくようにしゃがむと、ネックレスを手にとった。そしてじっとネックレスを見て、後ろの金具を外すと、私を抱きしめるみたいに両腕を首の後ろに回した。
 心臓がびっくりして飛び上がる。

「えっ!」
「もってて」
「え。え? でも……」
「今日は大活躍だったからな。俺たちからの礼だと思って」

 首の後ろで金具がつけられて、ネックレスが再び私のもとにもどってくる。
 礼だなんて言われたら、無下にするのも心苦しい。

「い、いいんですの?」
「うん。リィルの目の色に似ているし、よく似合ってる」

 どうしよう。ルイスから、プレゼントをもらってしまった! 正確にはちょっと違うけれど。でも昨日誕生日だったし、これは実質誕生日プレゼント!

「だ、大事にします! ずっと。宝物に!」
「うん。それじゃあ」

 ルイスが立ちあがってしまったので、私は最後のありったけの勇気を振り絞る。

「あの!」
「うん?」
「あの、い、いっしょには行けないんですけれど、その……い、いやじゃなかったら……。お、お友だちになってください!」

 ルイスがおどろいたように目をまるくした。
 もう一度しゃがみこんでくれて、考えるように上に視線を向ける。

 も、もしかして、断られる!?

「あ、あのっ。私も、いろんな場所に行くので、もし、どこかで会えたら、また、お話とか……っ」

 言ったあとに、つきまとうしつこい女だと思われるかも? と、冷や汗をかいた。
 こういうとき、なんて言ったらいいのだろう。

 あせっていると、大きな手が頭の上にのせられる。

「いやじゃないよ。ただ、紙をもってたか考えていただけ」
「紙?」
「個別の連絡先でいいか?」
「へ……」

 マヌケけな声が出た。

「あ。連絡先はいらないか?」
「え。いる。いります! 家宝にします!」

 食い気味でかかると、ルイスが身を引いた。
 おっと、必死になりすぎた。
 身を引いて淑女然として優雅にほほ笑む。
 ルイスがおかしそうに笑った。

「うーん、やっぱり一度もどるか。そんなに時間はかからないし、リィルもおいで」

 手を差し出されて、私はない尻尾を振って喜んで飛びついた。

 日が昇りはじめている帰り道、私はゲットした三つの連絡先片手にニマニマが抑えきれなかった。
 レネ、アルバトロス、そしてルイスの連絡先だっ!
 夢にまで見た、ルイスの連絡先!
 そして、私の人間お友だち第一号!

 ルイスにくっついてレイヴンの船に行くと、レネにつかまった。レネはずっと寝ていたらしい。ある意味とても逞しい。と、同時に、アルバトロスがどうして船に残っていたかも理解した。

 ルイスから連絡先をもらうことを話したら、レネの連絡先も渡された。オマケとばかりにアルバトロスもくれた。

 ルイスたちは、アクアバースに住む商家のお嬢さんとお友だちになったつもりだろうから、ちょっと心苦しくはあるけれど。でもでも、一気にお友だちが三人になってしまった……! うれしい。

「まったく。顔がだらしないですよ」
「うれしいからいいんですの!」
「あの風使いが好きなんですか」

 ズバッと、聞かれて私は言葉を詰まらせた。
 もう世界中の人にバレているのではと言うくらい、バレバレな気がする。

「……そ、そんなにわかりやすいんです?」
「もろバレ、つつぬけ、顔バレ」

 顔バレってなんだ。顔でバレているってことか。

「……る、ルイスにも?」
「さあ。よっぽど鈍くないかぎり、わかるんじゃないですか」

 なんてこった。そうなのか。そんなにつつぬけなのか。
 今さら恥ずかしくなってきて、かあっと顔が熱くなる。

「僕はいいと思いますよ」
「なにかですの?」
「運命って感じがするじゃないですか」
「え! そ、そうかな……」

 照れてすぐ真顔になる。
 ルイスには、レネがいるじゃないか。
 危うく天使のボイスに惑わされるところだった。

 ルイスたちの連絡先に海の加護を授けて、そっとポケットにしまう。しばらくすると、海が見える崖に到着した。

「アノシシア族っていうのは、海には入れないんですのよね?」
「あなたは本当に、なにも知らないんですね」

 ベオがいじわるに笑って、私を見る。

「僕たちアノシシア族は、本当の世界に住んでいます」
「……本当の世界?」

 って、どこだ?
 それにその言い方、この世界が偽物の世界みたいな。

「このボロボロの世界を元に戻すのは、きっと、この世界をはじめたあなたたちなんですよ」

 ベオはにこっと天使の笑みを浮かべて、そんなよくわからないことを言ったのだった。

海の恋革命 第一章【完】

ホーム画面登録で更新情報をアプリのように通知できるようになりました!プッシュ通知を有効化をご利用ください。 有効化する いいえ