やっとこさ家に舞い戻った私は、ノートとペンを用意し、テーブルの上に広げた。
あの乙女ゲーム……腹黒ヒロイン開花ルートの私は、どうなるんだったかな。思い出せ、思い出すのよ!
思いつくままにノートに書き出した後、私は灰になった。
……本当になってはいないけれども、灰になってどこかに飛ばされて行きたい気持ちにはなった。
この記憶、たぶん前世と呼ばれるものなのだと思う。前世の世界では、そういうものがあるのちらっと耳にしたことがある。
まあ、その前世の記憶とやらを頼りにするのなら、私の人生は、ココでジ・エンドであるらしい。
何度思い返しても、希望が見つからないのよー!
腹黒ヒロイン開花ルートのアメリアの行方は、多くは語られない。
けれども、主人公であるプレイヤーに、おまえが仕出かしたことの大きさを知れ! と言わんばかりの、制作陣の悪の微笑みが透けて見えるような『アメリアのその後』というのが、王子ルート攻略後にひっそりと語られる。
その内容とは……アメリアは嫉妬に駆られ貴族の誇りを失いヒロインを虐げたあげく、婚約破棄までされた公爵家の恥として、勘当される。
そして、何もしてないにも関わらず行き場を失ったアメリアは、身も心もボロボロにし、ヒロインを恨みながら死の台地と呼ばれる北の大地へと旅立って行く、というものだ。
そして最後に、その後のアメリアの行方を知る者は誰もいなかった――。
と、表示され、画面が暗転し、こちらを睨みつけるアメリアの立ち絵が表示されて終わる……という、なんとも後味の悪いルートとなっている。
どう考えてもバッドエンドとしか思えないのだけれども、これでもノーマルエンドなのよねぇ。
まあ、そんなことは置いておいて。
このまま行くと、私は家を追い出されてしまう可能性がある。というよりも、きっと追い出される。
どうしてもっと早くに思い出せなかったの?
思い出していたら、手の打ちようがあったのにっ。
今からでも何かできることを考えないと……。
焦る気持ちを抱えながら、何か手はないかと考える。再びノートに乙女ゲームの内容を書き出して、ピタリと手が止まる。
そうだ。
この乙女ゲーム、こんなにも意地汚いにも関わらず人気が出たのは、あるシステムがあったからだ。
そのシステムというのが――
私はゴクリと唾を飲み、震える唇を動かした。
「イリュージョン」
ポンっと、目の前に、透明なウィンドウが現れた。
「う、そ……できた……」
【ステータス】
名前:アメリア・ド・ファーレスト
種族:人間
レベル:1
スキル:調香・結界
称号:婚約破棄されし者