目の前に浮かび上がった、透明なウィンドウを凝視する。
ステータスと記されたそれは、私の個人情報を堂々と映し出していた。
驚いた。まさか、本当にできるなんて……。
だって、これまで16年間暮らしてきて、こんなウィンドウ一度たりとも目にしたことがない。
レベルやスキルがあるなんてことも聞いたことがない。
公爵家の娘である私が知らなかったのだもの。この国に住んでいる者がこの存在を知っているとは思えない。
いや、それともまさか、私にしか使えない、とか……。
はは、そんなまさかね?
とにもかくにも、こんな謎のウィンドウが現れたのはどう考えても普通じゃない異常事態なのだけれども、今の私にとっては一筋の希望の光。
再びマジマジとステータス画面を見つめる。
透明という違いがあるにしても、乙女ゲームで表示されていたステータス画面と全く同じだ。
ただ、主人公の場合は、選択肢によって初期スキルが変わったのよね。
私のスキルは……調香に結界?
調香って、匂いの調合ってこと?
それに、この結界って……。
考えていたところに、扉をノックする音が響いた。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
……来たわね。
アメリアの人生最大イベント。
地位も財産も全てを失って、一人路頭に迷う運命を背負う恐怖イベント。
これを回避する術なんて、私は知らない。
たとえ回避できたとしても、私が婚約破棄をされたという事実はもう知れ渡っているだろう。
きっと今後、幸せな生活なんて望めない。
それなら……。
チラリとウィンドウの中の文字、【調香】を見る。
新しい人生を始めてみるというのも、いいかもしれない。
「お嬢様? いらっしゃいますか?」
「いるわ。少し待ってちょうだい」
そう返しつつ、私は部屋の中を歩き回る。
最悪、お金があれば生き延びられる。
部屋の中に置かれている換金できそうなアクセサリーや宝石を、片っぱしからカバンに詰めて行く。
かさばる物は置いていこう。邪魔になるだけだもの。
そして、机の上に広げられているアメリアの不幸な人生を書き綴ったノートを見る。
「このノートは……もう、必要ないわね」
クスリと笑って、ノートを手に取り、火がついている暖炉の中に放り投げた。
すぐに火が燃え移り、灰となって消えて行く。
「やられっぱなしなんて柄じゃないの。絶対に、後悔させてやるわ!」