『お嬢ちゃん、あんた、スキル使いだろう?』
な、なに、このごっっついおっさ……いや、おじさん!
どうしてスキルのことを!? このひとも転生者?
それとも、やっぱり知っている人はスキルのことを知っているの?
もしもそうなら、情報が欲しい。だって、スキルの使い方わからないんだもの。
いや、でも待って。
どう見てもこの人、悪役……!!
「なんのことでしょう?」
すぐに外行きの仮面を被って微笑む。
むやみやたらにスキルのことが知られたら、大問題になる可能性がある。
まずは相手の出方をうかがってからでないと……!
ここは知らぬ存ぜぬを貫き通す!
「んんっ、俺の勘違い、か? スキル使いじゃ、ない? いや、でも今確かにイリュージョン……」
なっ、この人、イリュージョンを知ってる?!
まさか、やっぱり私と同じ転生者!?
「人違いならすまんかった、俺の勘違いらしい。じゃあな、嬢ちゃん。気ぃつけて帰りな!」
「あ、待っ……」
「マルク、何をしているんだ」
建物の影から、フードを目深に被った怪しげな人が現れた。
げげ、やっぱり不審者? 悪役!?
呼び止めようと伸ばしかけた手を、そっとおろす。
「エルク様! もう、待っててくださいとあれだけ言ったでしょう」
「おまえが遅いのが悪い」
「寂しかったんですか?」
「そうだ」
「……エルク様っ!」
え、何この茶番。
フードの人、スラッとしてるけれど背も高いし、声は低めだし、男の人、よね?
…………だめよ、私は何も見てないわ。
何も見ていない……っ!
そっと忍び足でこの場を去ろうとして、フードの男に気づかれた。
「なんだ、そこの女」
レディーに向かって失礼な言い方ね?!
でも怪しいから関わりたくない。私は逃げるわ!
「ああ、あのお嬢ちゃんかと思ったんですが、どうやら勘違……」
「なんだと」
怪しいフードの男は、ザ、悪役の話を最後まで聞かず、私の方を見た。
「そこの」
そして、近づいてくる。
そこのって何よ。礼儀ってものを知らないのっ?
「聞いておるのか、女」
「あのねぇ、見ず知らずの女性に対して失礼だと思いませんの?! だいたい、レディーに話しかけるときは名を名乗りなさい! 顔も見せないなんて無礼だわ!」
言い切ってから、やってしまったと頭を抱える。
「おいおい、嬢ちゃん。嬢ちゃんこそ口の利き方気ぃつけな」
ザ、悪役の垂れている目が、途端につり上がった気がした。
て、ちょっと待ってよ。手、手! なんで剣に手を伸ばしているわけ!?
不幸のアメリアの人生、踏んだり蹴ったりね。
これじゃあスキルを試す前に死んじゃうじゃない!
身の危険を感じて一歩後ろに下がると、フードを被っていた男が、ザ、悪役を片手で制した。
「よい。確かに女の言う通りだ。失礼した」
男は、そう言いながらフードに手をかけた。
「私は、アールス王国の第一王子、エルク・C・アールスだ」
フードの奥から現れたのは、生きた妖精と見紛うような、美しい男。
サラリと揺れる銀色の髪。瞳は吸い込まれそうな紫色。
大きな瞳は猫のようで、鼻も、口も、全てが作り物のように美しかった。
神秘的、というのは、この人のためにあるのだろうと、そう思った。
「して、主の名は?」
「あ……アメリア・ド・ファーレスト、です」
勝手に口から言葉が出た。
しかも、ミドルネームもラストネームも答えてしまった。
もう公爵家とは縁を切ったというのに。
「そうか、アメリアというのだな」
「は、い……そうです」
「して、アメリア。お主、結界持ちか?」
「……は……、はい?」
危ない危ない。
勝手に答えそうになってしまった。
ハッと我に返って身を引く。
こ、この男、なんかよくわからないけど、危険だわ……!
「ほぅ、そうか……お主が結界持ちか」
美しすぎる男、エルクは、そう言って少年のように笑った。
び、美人……!
て、そうじゃなくて……っ!
どうしてバレたの!?