「おお、意外とすぐに見つかるものだな」
怪しさの塊である美男子は、そう言って嬉しそうに笑いながら、くるりと背後の、ザ、悪役を振り返る。
「さすがエルク様! もう結界持ちを見つけるとは……っ。マルクは、マルクは感激です!」
ザ、悪役……長いからマルクね。勝手に呼び捨てにするわ。
そのマルクは、右腕で両目を覆い、「うぉぉぉ!」と大げさに泣き真似をする。
いや、それよりも待って。どうして結界のことがバレたの?
そもそも、この人たち……何者!?
アールス王国って言ったかしら。
アールス王国って、どこ!?
「して、アメリア」
美男子エルクは、再び私の方を向いて、無邪気な少年のように笑う。
う……美青年なのに、かわいいっ……!
美少年エルクはそっと、これまた白く美しい手を私に差し出してきた。
「私と一緒に来てはくれないか?」
「は……はい?」
え、今、この人なんて言ったの?
一緒に来てくれ? どこに? ええええ?
「あ、の……よく、意味がわかりません。結界というのも、何かの間違いではないでしょうか?」
とりあえず白を切って乗り越えるしかない。
美男子エルクは大げさに目を見開いた。
この人、いちいち仕草がかわいいな。ちょっと母性をくすぐられてしまう。危険だわ。
「なんとお主、スキルを知らずに使っていたのか」
「……スキル?」
やっぱり、この人たち、スキルのこと知っているのね?
ならちょっとは情報を引き出せるかしら。
「先ほど、私のスキルから身を守っただろう」
「………………はい?」
たっぷり間を空けて、そう答えた。
身を守った? 私が? いつ?
頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
あれ。
でも待って、ウィンドウ……ウィンドウが表示されてなかったはず。
スキルが使用されたら、ウィンドウが表示されるんじゃなかったの?
……まさか。
今のは戦闘ではなかったから表示されなかったって、そういうこと?!
なにそれ、不便なシステムね!
確か、あの乙女ゲームの戦闘システムは、本当に戦う戦闘と、会話での戦闘……相手を言い負かすものの二つがある。お父様との戦闘はたぶんこれね。
スキルはその時は確かに表示されるのだけれど……通常の会話イベントでは確かに表示されなかった。
そもそも、通常の会話イベントでスキルを使用する機会なんてないもの。
「この辺りの地では、スキルが知られていないというのは本当だったのだな」
「あの、待ってください。あなたのスキルって……」
「うん? 私のスキルは操りだ。声で人を操ることができる」
は、はいぃぃぃ?
なにそのチートスキル! 怖い、やっぱりこの人、危険だわ!
「エ、エルク様……! そのようなこと、ほいほいと話されては……っ」
「よい。どうせアメリアは連れて行く」
え、待って、連れて行くってどこに!?
勝手に会話進んでいるけれど、私許可してないね?!
「あの……私はどこに連れて行かれるのでしょう?」
「おお、まだ話していなかったな」
うっかりうっかりと聞こえてきそうな微笑みで、エルクは私を見た。
この顔、もう私が絶対ついて行くと思い込んでいる。
まあ、国外逃亡も考えていたし、そのアールス国という場所によっては、ついて行っても――
「主たちが北の大地と呼ぶ大陸、サハルト大陸だ」
「………………」
ちょっと待って。何これっ。
新たな人生で、不幸の道から絶対に逸れてやると決めていたのに。
調香を使ってお店でもやろうかななんて思っていたのに。
なのにっ!
どうしてアメリア破滅ルートをなぞっているのよぉぉぉぉぉ!?