私はステータスウィンドウを見たまま固まっていた。
私の横に表示されている、エルクとマルクのステータス、おかしい。目の錯覚じゃ、ない……?
れ、レベル、58?
マルクにいたってはレベル62!?
ちょっっと、待って?! 私、レベル2よ?!
落ち着いて、待って、よく考えるのよ。
通常のRPGゲームでいうと、レベル2は初期ね、とっても初期。スライムとか倒してレベルを上げる期間ね。
対してレベル58……。
これって、ほぼラスボスの前とか、下手したらラスボスに挑めるレベルよね?!
絶対そうよ! だって、あの乙女ゲームはレベル30くらいでクリアできたもの!
冗談じゃないっ!
このまま死の大地に行ったら、私は間違いなく死ぬ。破滅まっしぐらだわ!
「アメリア? 何をしているんだ」
私が立ち止まったまま動かないことに気づいたのか、エルクが不思議そうに私を見ながら近づいてきた。
あ、そうだ。このウィンドウ。
エルクたちはスキルについて知っているんだから、このウィンドウの正体も知っているかもしれない。
「ねぇ、エルク」
「うん?」
「エルクたちは、これが何かわかる?」
私は透明なウィンドウを指さした、が。
「……テーブルのことか?」
「…………はい?」
え、ちょっと待って。どういうことっ?
「テーブル、じゃなくて……。あ、エルクたちはスキルをどうやって確認しているの?」
「ああ。この近辺にはないのだな。コレだ」
そう言ってエルクは、自分の服の下に手を入れ、首から下げられているカードホルダーのようなものを出した。
こちらに向けてくれるから、のぞき込んでみるけれど、ただ真っ白なだけで何も書かれていない。
これが、なに?
訝しげにエルクを見上げると、エルクは「うん?」と少しだけ微笑んで、人差し指でトントンと真っ白のカードを示した。
そして――
「イリュージョン」
エルクが例の言葉を呟くと、真っ白のカードに文字が浮かび上がった。
なにこれすごい。なんでもありなのね。
と、言うか……これ、私のウィンドウに表示されているのとほぼ同じ?
つまり、エルクたちはこの謎のウィンドウは、見えないっ?
「こ、これは、なんなのですか?」
「アールス王国にある巨大な木から作られる、スキルカードだ。民は皆、このカードを使って自らの持っているスキルを把握する」
なんて便利な……。
「スキルを持っていない者もいるが……」
そこまで言って、エルクはシュンっと肩を落とした。なんてわかりやすい……。言わなくとも理解できた私がすごいのだろうか。
いいや、顔に、「差別、なくしたい」と書かれている。
仕方ない、なぐさめるか。世話のやける……。
「エルク、私の知っている言葉に、なさねば成らぬ何事も、というのがあります」
「ほぅ?」
お、目がキラキラと輝いた。
新しいことを知るのが好きなのね。
「どんなことも強い意志を持ってやれば、必ず叶うみたいな感じです。現に、私を見つけることができたじゃないですか。それに、ついて行く気なんて全くなかった私の意志を変えた。そういうことです」
言ってしまってからなんだか恥ずかしくなったので、「お腹すきましたね」と先に歩き出す。
すると、隣にエルクが並んだ。
チラリと横目で見ると、ホクホクとした満足そうな笑み。
「元気、でたんですか」
「そうだ」
「そうですか」
「アメリアのおかげだ」
少年みたいにくしゃりと笑うのは、ちょっと反則じゃないですか?
心臓が、ぐしゃっと、鷲掴みにされたような気がした。
ストレートすぎるのも考え物ね。
あまりにも純粋すぎて、王に向いてなさそうな気もしたけれど、こうもハッキリ言われると逆に尽くしたくなってくるから、ある意味王向きなのかもしれない。
「そういえば、エルクは今おいくつなんですか。レベルは見えましたけど。58、と」
私は58を強調した。
レベル差がこんなにあるんだ、こんな見た目をしてても実は38歳とか……。
「歳は、今年で16だ」
「…………はい?」
えっ、待って、嘘でしょう?
同い年!?
えっ、同い年でレベル2とレベル58!?
この人……こんな純粋の塊みたいな目をして、いったいどんな壮絶な人生を送ってきたのっ?!