ニュルリと、何かが一斉に地面を這った。
それを感知した瞬間。
ゾワっとした嫌悪感が体を包み込む。
まさか。まさか。今のって……っ。
そっと、地面を見た。
「いやぁぁあああああああ!!!!」
私の悲鳴が木霊した。
アルジュがレベルを上げてくれと、そう言って、私たちを連れて移動のスキルを使った。
てっきり、てっきり、この間と同じ場所だと思っていた。
そう、私は油断をしていた。
スルスルと足に巻きついてきて、動けなくなる。
「アメリア!?」
「エルク、えるくっ、とって、取って!」
半泣きになりながら訴える。
エルクはその目に動揺を走らせて、私の足に手を伸ばした。太ももに巻きついていた感触がなくなって、そのまま腰が抜けて座り込もうとして、地面に蔓延る『ソレ』を見て、エルクの背中にしがみついた。
そのままよじ登って、足を地面から離す。
「あ、アメリアっ」
「動かないでっ、動かないでっ! もうやだ、帰る。エルク倒して、はやく倒してっ!」
エルクの首筋に顔を埋めて視界を塞ぐ。
「あんた、芋虫は平気なのに、蛇はダメなんだ?」
ひぃぃぃぃぃ! 口にするのもおぞましい名を声にするとは、アルジュ、恐ろしい。
「それより、王子がいろいろやばそうだけど」
そう言われてしぶしぶ顔を上げる。
エルクが顔を真っ赤にして固まっていた。
「……、早く倒して」
ガブッと肩に噛み付いた。
ビクリと体を震わせたエルクが、私を支えるように左手を後ろに回す。
「アメリアっ」
「エルク様ーーー! ほら見てください、こいつら手に絡みついてきて可愛いですよ」
ずいっと、マルクが世にも恐ろしいものを腕に巻きつけて帰ってきた。
「いやぁぁぁあああああああああ!!!」
「……っ、アメリアっ、大丈夫だから落ち着けっ」
大丈夫!? この状況で!?
地面には世にも恐ろしいアレがこんなにいるというのに!?
「帰る、帰る! アルジュ、私を帰して!」
「んー? 面白いからヤダ」
この男、この地獄から生きて帰ったら絶対泣かす!!!
半泣きになりながらアルジュを睨んだ。
「それよりほら、さっさと倒しなよ。レベル上げてもらわなきゃ困るんだけど?」
「別のとこにして」
「無理」
不満を乗せてガブガブとエルクの肩を噛んだ。
エルクが私を背中におぶったまま右手で剣を抜く。
そして、地面にいる奴らをザクッと切り裂いた。
謎の青い液体が、地面に飛び散った。
もうだめ……死にたい。
そうか。
きっと、ゲームのアメリアはこうして死んだのね。
今ならその気持ちわかるわ。
ああ、世にもおぞましい。
こんなことが起きるなんて。
私はもう、死ぬのね……。
「お嬢? エルク様! お嬢が口から泡吹いてますっ!」
「アメリアっ!?」
「……っ、面白すぎでしょ。いいこと知ったなぁ」