数十の魔物を倒し、私とマルクはなんとか城門までたどり着くことに成功した。ただ、門が閉まっている。
門番もいないし、どうしたものかと思っていると。
「お嬢、これ壊しても大丈夫でしょうか」
「えっ、いや、そりゃあ壊せるなら――」
「承知!」
マルクが剣を両手で振り上げ、一気に振り下ろした。
硬い門、のはず。決して、けっっして、そう簡単に、そう、豆腐のようにスっと切れるような門ではない。
なのに。
マルクが剣を振り下ろした瞬間、門は真っ二つに切り裂かれ、派手な音を響かせて内側に倒れた。
嘘でしょうっ!?
大変っ、いくらするのかしらっ?
て、今はそんなこと考えている場合じゃない。
これは、王子の命を救って全額免除してもらうしかないっ!
「マルク! ついて来て!」
「当然!」
お城の中を知っていて良かったと、今日ほど思ったことはない。
夜の、しかも何の前触れもない襲撃だからか、城の中は地獄絵図となっていた。
統率が取れていない。
装備も整っていないし、お城の給仕の者なんて、怯えてなんの役にも立っていない。
まずは、指揮を、指揮を取らないと。
湧き出る魔物を切り裂きながら走る。
階段を駆け上がって、王族のいるフロアに行こうとして、ピタリと足を止める。
「お嬢?」
大人しく、部屋にいるタマだろうか。
あんなんでも、私がケツを叩いてきた男だもの。
間違いない、城が攻められたときに、王が指揮を取る場所。屋上!
私は屋外へと続く螺旋階段を駆け上がった。
風の抵抗を受け、フードが外れた。
それでもそのまま走って、外へ出る。冷たい風が、体を貫いた。
湧き上がる魔物の中心に、いた。剣を振り回し、なんとか兵に指揮を取ろうとする男。
あんなんでも、ゲームのヒーローだものね。
私は石の床を蹴ると、一気に剣を振り下ろした。
【スキル、結界を使用しました】
「アメリア!?」
魔物を斬り裂いたことで、こちらに意識が向いたらしい。さらに続けざまに剣を振って、そして私に合わせるように背後をマルクが守る。
「アメリア、なのか……おまえは、生きてっ……」
へたり込みそうになっているバカ王子を一瞥して、声を張り上げる。
「メソメソしてる暇があるなら剣を振るいなさいッ!」
シャキッと背を伸ばしたバカ王子が、剣を魔物に振り下ろす。
私は城壁の上に立って、下を見る。
兵がいるけど、まとまってない。
バカ王子の胸ぐらから、ブチッと指揮用の拡声器を奪い取る。
「第一軍隊、前へ!」
兵たちが戸惑うようにざわめいたのがわかった。
緊急事態だというのにっ……!
「こんのっ、大馬鹿者!! 死にたくないなら戦いなさいっ! 死にたい者は今すぐ魔物の前に出て壁になれっ! わかったなら隊列を整えなさいっ!!!」
ビリビリっと、空気が痺れたような気もした。
兵たちが、慌てて隊列を作る。
兵の数が多いけれど、前衛にいる者たちになら、結界を張れそうね。
【応用スキル、身体結界を使用しました】
「前衛! あなたたちは今不死身よ! 心置きなく戦いなさいっ! 躊躇したら私が殺す」
そう言いながら、吹っ飛んできた犬型の魔物を一刀両断した。
それが兵の恐怖心を煽ったのか、ぶるりと兵たちは震え、前に出る。
でもやがて、本当に不死身なことに気づいたようで、剣を振る動作が軽やかになった。
そして、恐怖心が薄れたからか、わずかに魔物が減った気がする。
一旦城壁から下りる。
と、こっちもこっちでだいぶ片付いていたようだ。
マルクのスキルだと思う炎が、敵を焼き尽くしていた。
「マルク! 怪我は?」
「問題ありません、お嬢、俺ぁ、一生あんたについて行きますッ!」
「はぁ? まあ、なんでもいいけど。エルクたちと合流したいのよね」
「そうですね、エルク様は――」
「あ、アメリア……」
不意に、私たちのものではない声――バカ王子の声が聞こえて、振り返る。
そこには、感極まったような表情をしているかつての婚約者がいた。