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「え、と……勇者って言うのは……」

 おそるおそる口にすると、アルジールは私を見た。

「さあ。このジジイが、おまえが勇者だ、とかなんとか」

 アルジールは人差し指で地面に突き立てられている剣を弾いた。

「我が名は聖剣バルハイト」
「さっき聞いたよ」
「おっほん。世界が常闇に包まれるとき、我は目覚める」
「今昼だよ?」
「ええい! ムスメ、話の腰を折るな!」

 気になったから、つい。

「それと私はムスメじゃなくて、ミリア・リーベル」
「ふむ、そうか。よく聞けミリア。コレから世界は暗黒に包まれるだろう。我を扱える勇者の力が必要なのじゃ」
「なんでジルなの? 確かにこの村の中ではジルは剣が上手いけど、もっとすごい人ならお城にいると思うよ?」
「剣の技術はどうでもよい。我を扱える魔力があることが重要だ」
「……魔力?」

 なんのこっちゃ、と首をかしげながらジルを見上げた。ジルは肩をすくめる。知らないらしい。

「なんと、魔力を知らぬのか? おお、嘆かわしい! 文明はソレほど退化しているのカ!」
「文明は進化してると思うけど。昔は剣だけだったらしいけど、今はピストルが一般的だし。遠くから、バーンってするやつ。知らない?」
「魔力を忘れ、そのようなものに取り憑かれるとは!」

 なんだかこの剣とは話が噛み合わないようだ。私は剣の柄に手を伸ばして、地面から引き抜こうとした。

「んっ、なにこれっ、おも! ジルこんなの持ってたの?!」

 あまりの重さにビクともしない。手を離して肩で息をすると、アルジールは何言ってんだという目で私を見て、するりとたやすく剣を地面から引き抜いた。そして、鞘に収める。

「うそぉ」
「たいして重くないぞ。持ってみるか?」
「い、いい! なんか嫌な予感する! それにその剣おっさんでしょう? あんまり触りたくないなあ」
「キーッ! このムスメ! 我は聖剣じゃ! 聖なる剣。我と相性の良い魔力を持つ者しか手にすることはできぬ!」

 剣が発狂した。
 なんかすごい絵面だ。チカチカと狂ったように点滅する宝石。雑に剣を持つ、自称勇者。
 当たり前みたいに剣と話してしまっている私も、頭がおかしいかもしれない。

「えーと、そうだ。私、洗濯が……」

 ふと我に返って、白々しくそう口にする。

「ああ、洗剤だったな。ちょっと待ってろ」

 そう言って、アルジールが剣を片手に家の中に入っていく。
 戻ってきた日常に、ほっと息をついた。
 ぼんやりと空を見てると、扉が開く音がした。視線を向けるとアルジールが。

「勇者って、冗談だよね?」

 洗剤を片手に歩いて来たアルジールにそう問いかける。アルジールは肩をすくめる。よくわからないらしい。
 洗剤を受け取っていると、後ろからひょこひょこと跳ねながら、聖剣がやって来た。独りでに歩いている剣、という恐怖のワンシーンを見てしまう。

「えっ、なになに、こわ!」
「勇者よ、安心するがよい。我の存在をつかんだ神官が、いずれこの場所へとやってくるはずじゃ」

 私は目を瞬いた。

「えっ。神官?」
「うむ、我がよみがえったことを知った神官たちが、勇者を迎えにやって来る」
「……え。なにそれ。まさか、それって、ジル、この村を出て行くってこと……?」

 チカチカと瞬いた自称聖剣は、高らかに不穏な笑い声を響かせた。ぶひひひひ、と。


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