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 自称聖剣、バルハイトの言ったことは、まさに現実となった。

 あれから数日後、私たちの住む閉鎖的な村には、神官と名乗る、白のローブを着た厳格なお兄さんがやって来た。白く長い髪を結って、横から垂らしている。美人だった。
 ただ、後ろに幾人もの兵士を引き連れていた。軍隊かと思った。この村が襲われるのかと、村人は阿鼻叫喚におちいった。

「ひいぃぃぃぃ!」
「ぎゃあああああ! やめろおぉぉぉおお!」
「お、おちっ、落ち着いてください! 我々はみなさんに危害を加える存在ではありません!」
「こっち来るなぁぁぁぁ!」
「いたっ! もの投げましたね?! 神官であるこの私にっ……! 覚悟はできていますか?」
「ひぃぃいい、やっぱり殺されるぅぅぅぅ!」
「ち、ちがっ、それはあなたたちがものを投げたからでしょう!? ええい、落ち着けと言っているだろう!」

 外は地獄絵図だった。

 窓からその様子を見ていた私は、くるりと振り返って、あぐらのまま腕を組み、黙って目を閉じている自称勇者を見た。いや……。もう自称勇者ではないのかもしれない。

「ね、ねえ。あれってさ、ジルを迎えに来たのかな?」
「さよう」
「おっさんには聞いてない」
「んなっ!?」
「でもいいや、あれが本当にその神官なの? じゃあジルは、どこに行っちゃうの?」

 宝石をチカチカと点滅させている剣に、私は四つん這いで近づいた。

「城じゃ。他の仲間たちも集まっていることだろう。そして目覚める闇の根源を倒すのじゃ」

 威厳たっぷりに言っているがよくわからない。
 城に連行されるということだけはわかった。私はチラリと目を閉じて黙っているアルジールを見た。

「ねえ、どうするの?」

 アルジールはパッと目を開けて、聖剣をつかんだ。

「行ってくる」

 そう行って、面倒くさそうに腰を上げ、首をぐるぐると回す。

 私は少しだけびっくりした。断ると言うかと思ってた。だって、今まで普通の村人Bだったのに、いきなり勇者だなんて。
 立ち上がったアルジールのズボンを軽く引っ張る。

「……行っちゃうの……?」

 たよりない声が出た。アルジールは私を見ると、ニヤリと、よからぬことを企んでいる顔で笑った。

「ばーか。なんつう顔してんだよ」
「だって、き、危険かもしれないし」
「……まぁな」
「お、幼なじみとしては、心配だし……」
「ふぅん? ま、パパッと倒して帰ってくるから、心配すんな」

 うそだ。
 そんなパパっと帰って来れるはずがない。そもそも、こんなちっぽけな村を出たら最後、都会の煌びやかな誘惑に負けて二度と帰って来ないに決まっている。

「私も行く」
「は?」
「わ、私も行くっ!」
「無茶言うなよ。連れて行ける訳ないだろ」
「それでも行くっ。わ、私、交渉してくる。値切るのには自信があるんだ」
「値切るって、なんか違くね?」

 うるさいな。そういう真面目なツッコミはいらないよ。
 私は拳を震わせながら家の扉をスパーンッ! と開け放つと、村人にもみくちゃにされて涙目になりながら震えている、美人お兄さんの神官の元に歩み寄った。
 そして、慈悲の笑顔で片手を差し出す。

「あなたを助けてあげます。代わりに、私の言うことを聞いてください」
「……あなたは……まさか、神、なのですか?」

 私を見て、震える神官はそう言った。
 恐怖に呑まれた人を操るのは簡単だといつだか聞いたことがある。
 私は心の中でによりと笑った。

「勇者の居場所を教えます。私に着いてきてください」

 目じりの涙を拭った神官は私を見て祈りを捧げた。


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