【お知らせ】1/15 転生マーメイド第一話改稿しました
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1 はじめまして、壊れた世界

 もし、あの学校に、行っていなかったら。
 もし、違う仕事をしていたなら。
 もし、あのとき、あの選択を、自分がしていなかったら。

 そんな『もしも』を、人は誰しも、思ってしまうものだ。

 今の自分とは別の、見ることのなかった、未来可能性
 人はソレを、パラレルワールドと呼ぶ。
 

 私はかつて、この世界──この物語に、違う未来があったのなら、どうなっていたのだろうかと、考えたことがある。

 死ぬはずの人が生きて。
 訪れたはずの破滅は消えていく。
 思い描いた、理想郷が、もしもあったなら、あの人は幸せに笑っていたのだろうか──と。

 そんな、都合のいい夢物語を、私は願った。

 もしも。

 無限の可能性を、選べたとして。
 なにもかもを、作り直せたとして。

 決められていたはずの未来を変えることは、本当に、できるのだろうか?

転生!悪役令嬢はマーメイド!?
好きなキャラのため世界破壊します

「えっ! それは本当なんですの?!」

 ウンウンとうなずく魚の周りを、泳ぎながらくるくると回る。

「本当に、本当に、ほんっとうに、新種の石が?」

 魚は私とダンスを踊るように、その場で一回転しては、またもやウンウンとうなずいた。
 海の中にスっと伸びる、鮮やかなオレンジ。惚れ惚れするくらい、キレイな背びれだ。小さな魚の背びれが、動くたびに、ひらひらと海になびいていた。

「きゃーっ! キラッキラの青い石! 絶対、絶対、レアものよ! それじゃあ、さっそく見に……って、あっ!」

 しまった。
 忘れていたけれど、これからお父上さまと、ダンスの練習があるんだった。
 ピタリと止まった私に、魚は不思議そうな顔を向ける。

「ごめんなさい。これから、ダンスレッスンなんですの。場所だけ教えてくださいまし」

 そう告げると、魚はくたりと背びれを萎びらせて、うなずいた。

***

 この世界には、目をみはるような綺麗な石が、たっくさん、散らばっている……らしい。

 ウワサでは、青や緑や黄色に赤、パキッとした鮮やかな色を放つ石から、透き通るような神秘的な石まで!
 中には、真ん中に不思議な模様が浮かんでいる、珍しいのもあったりするんだとか。
 いいなぁ。
 そんな話を耳にするだけで、ワクワクする。

 だって、私、リィル・クラッドは、珍しい石をコレクションするのが大好きだ!

 まぁ、私はまだ、海の中しか見たことないんだけどね。
 なにせ、私は地上には行けない、半人前の海の一族だ。

 海の一族には、『十歳になるまで地上には行けない』という、決まりがある。
 理由なんてわからない。
 そういう決まりなんだって、お兄さまたちから聞いた。

 そのときは「そういうものかぁ」って納得したけれど、やっぱり、やっぱり、はやく地上に行きたいっ!

 だって地上には、知らないことが、たくさんある。

 触れたことのないもの。
 行ったことのない街。
 踏んだことのない、地上の土。
 花の匂いは? 草は? 木は?
 近くで嗅いだら、どんな香りがするのだろう。

 それからそれからっ、ちょっとびっくりするような、ワクワクドキドキの冒険!

 地上に行ったら、まだ見たことのない、珍しい石を、たーっくさん、集めるんだ!
 海の中の石だけじゃなくて、草の上や、土の上、花の中に眠る石とか!
 地上を見てまわって、キラッキラの石をコレクションする。

 それが、私の夢!

 そして、やっと、やーーっと、私の夢が叶う。
 だって、もうすぐ私は、十歳の誕生日を迎えるのだから!

***

 新種の石を報告してくれた私の密偵、魚パウロと別れ、家に戻った私は、父上の執務室へやって来ていた。
 父上の部屋を見てもいなかったから、きっとここだろう。最近は渡り鳥という犯罪者が増えているそうで、父上は毎日忙しそうにしている。
 犯罪者だなんて。
 陰鬱いんうつな世の中だ。まったく。

「お父上さま……」

 数回ノックをして、キィッと、貝殻でできた扉を開けた。

 そして、ふと、顔を上げた、そのとき。

 私の頭上に、雷が落ちた。

 ピシャーンッ! と、幻聴さえ聞こえた気がした。
 体中に走る衝撃で、全身がぶるぶると震えたくらいだ。

 私の視線の先には、ボゥっと浮かびあがる、立体ホログラム映像。ただのホログラムだ。
 だけど、私の世界を一変させるには、十分すぎる映像だった。
 

『渡り鳥、風碧かざみどりルイス、追加手配申請──二百万シェル』

 
 そう浮かび上がっている文字と共に、立体ホログラムは、ひとりの少年を映し出していた。

 貝殻型映写機の真上に広がる、本物と見紛う、砂の舞う大地。
 崩れた廃墟を背にして、こちらを見つめる、まだ幼さのある、美しい顔立ちの男。
 渡り鳥──それは、『この世界』の、犯罪者を示す言葉だ。

 映像の中の、犯罪者であるはずの男は、優雅な立ち姿で右手に剣を持っていた。長く、鋭い剣を。
 おそらく本物だろう。触れたらスパッと切れる、本物の長剣だ。

 とたん、男が動く。
 風にのっているかのような、軽やかな身のこなしで地を蹴り、高く飛び、なめらかに空を泳ぎながら、右手の剣を振るう。

 男が十人いたって、その大きさには届かないような、獰猛どうもうな獣を、いともたやすく斬り裂いた。

 声は聞こえないけれど、建物がビリビリと震えているのが見えた。悲鳴か、咆哮ほうこうか。いいや、もしかしたら、絶命した声かもしれない。

 一瞬、映像が止まったように見えた。
 本当は、ただ、時が止まってしまったかのように、一連の狩りが終わっただけ。

 たった今、自分の数十倍はありそうな獣を斬り裂いた男は、地面へ倒れ込んだ、トラによく似た生きものを見つめて目を細め、返り血を頬につけたまま空を見る。
 澄み渡る空の色によく似た瞳の色までもが、くっきりと、映像として映し出されていた。

 そして、風がふいたのか、トレードマークの赤いマフラーが、ふわりとなびく。
 少しだけ乱れたマフラーの隙間からのぞく、左の首筋には、みどりに輝く、『石』があった。

 透き通る宝石のように美しく、普通の人が持つはずのない、石。

 バクバクと心臓の音が速くなる。
 なにも、聞こえなくなった。
 視線はただ、バカみたいに、ホログラム映像に釘づけだ。

 ああ、もう。
 間違いない。

 間違えようが、ない。

 だって『私』は、何度も見た。
 何度も何度も、飽きることなく見ては、その勇姿に惚れ惚れしていた。
 届きもしない「好きだ」を繰り返しては、ひとりで浸っていた。たった数ページの紙面におどる、色のない姿に向かって。

 風碧かざみどりという二つ名を持ち、世界に名をとどろかせる、イケメン剣士。

 このルイスは、『私』が一番愛した、『キャラクター』だ。

 ぐっと胸が詰まった。

 信じられない疑惑の思いと、奇跡に巡り会えた喜びと、目の前に迫る絶望が、ぐちゃぐちゃになって襲ってきた。
 洪水のように私の心を掻き回して、暴れていく。だって、だって、私は。

「まったく、また犯罪者が増えた。法も守れない奴らが、世界を汚していく。リィルもそう思うだろう?」

 肉厚な顔をぎゅぅとしかめて、私の父親である男が不愉快そうに顔をあげた。

「ひぃえッ! リ、リィル!? な、涙がっ。どっ、どうしたんだい? どこかぶつけたかい? また変なものでも食べたのかいっ? あぁ、父上のかわいいリィル、泣かないでおくれ」

 椅子から転げ落ちそうな勢いで、でっぷり太った体が突撃してくる。
 汗とつばを飛ばしながら、わたわた必死に私のご機嫌をとる姿は、娘に頭の上がらない普通の父親、そのものだ。

 だけど。

「お、お父上さま……」
 

 私は、思い出してしまった。

 頭の中に流れてくる、たくさんの、映像きおく

 紙の上に描かれた、カッコよくて、悲しくて、残酷で、だけど美しい、たくさんのキャラの生き様。

 
 私は、この世界を、『知っている』。

 だってココは、私が愛してやまなかった、『ドリームバード』という、少年マンガの世界に、そっくりなんだもの。

「お父上さま……私は、海の一族なんですの?」
「な、なにを言っているんだ、リィル。当然じゃないか。リィルは、父上のかわいいかわいい、世界一の娘だよ」

 必死にご機嫌をとる父上の言葉は、私の心にグサリと、トドメをさした。

「そ、そんな……」

 よろよろとよろけて、尻もちをついた。
 まだちっちゃな自分の手のひらを見つめて、絶望に打ちひしがれる。

 人と、なにも変わらないように見える。
 今流れ込んできた『私』の記憶の中にある、世界で、日本で、地上で生きている、人と。
 足だって、ちゃんと二本あるのに。

 なのに、私は、海の一族!?

 だって、だって。
 海の一族といったら……。

 マンガに出ていた、主人公の敵になる、悪役の一族じゃないかっ!

第一話 はじめまして、壊れた世界

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