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01 別名、腹黒ヒロイン開花イベント

 王家主催の第二王子生誕祭。
 公爵家の長女として生まれた私、アメリア・ド・ファーレストは、好奇の目にさらされていた。

 そう、私の婚約者であるはずの第一王子が、

 
「皆の者に報告がある! 私の愛するフィルを紹介する!」
 

 と、口にしたからだ。

 
 フィルって、誰ですか。

 会場の空気は疑問符に包まれた。

 こんなにも、自由奔放な貴族の意思が一致することなんてないだろう。
 ある意味奇跡に近い出来事だ。

 しかし、そんな会場の空気などどこ吹く風。
 王子の言葉を待っていたとばかりに、両開きの入口が使用人の手により優雅に開かれる。

 
 カツン、とわざと見せつけるかのようなヒールの音がひとつ。

 扉の奥から現れたのは、薄い茶色の髪に、クリっとした大きな瞳をした、ひとりの令嬢。

 私は、見覚えがあった。
 王立学院に異例の転入をしてきたという、フィル・イ・ヨハンソン男爵令嬢。

 王子が令嬢のそばに歩み寄り、恭しく片手を差し出す。
 令嬢は軽く微笑んで、その手を取った。

 そして、優雅な足取りで、二人は私の目の前にやってくる。

 
「アメリア・ド・ファーレスト」

「……なんでしょう、ゼルベルグ様」

「貴様の悪行には、ことごとく愛想が尽きた」

「……はい?」

「今日をもって、貴様との婚約を解消する!」
 

 高らかにそう宣言した、元、私の婚約者。
 しんっと静まり返った一瞬、今度はざわめきが波のように広がっていく。

 突き刺さる視線の中で、私は羞恥に震えていた。

 なぁにが、婚約を破棄よ!
 あんたみたいなろくでなし、こっちから願い下げよっ!

 ご満悦そうに口を歪ませて笑う王子の顔を見て、ビンタの一発でも食らわせてやろうかと足を踏み出した瞬間、頭のてっぺんにイナズマが走った。

 室内で落雷でも受けたのかと思うほど、目の前が光り、記憶が、弾けた。

 
 
 アメリア・ド・ファーレスト。
 とある乙女ゲームRPGの王子ルートに立ちはだかる、ラスボスの名だ。
 王子を攻略するには、アメリアを排除せねばならない。聡明なアメリアを排除する方法は、ふたつ。

 ひとつ、アメリアを懐柔させ、自ら婚約者という地位を降りさせるか。
 ちなみに、これはかなり難易度が高い。
 アメリアの好感度をMAXにまで上げ、さらにはこの国にとっていかに自分が必要であるかということを、アメリアかつ、王子に見せつけなければならないからだ。

 
 そして、ふたつ目……それは――

 
「フィルから聞いたぞ、貴様がフィルに対して何をしていたか!」
 

 ふたつ目、それは、アメリアを罠にかけ、陥れるという、悪役もビックリな腹黒ルート。

 これが公式な攻略ルートとして存在しているのだから、制作陣がいかに真っ黒でドエスであるかがおわかりいただけるだろう。

 
「聞いているのか! アメリア!」

「聞いております、殿下」

「ならば、そういうことだ。二度と私の前に顔を見せるな!」

「承知いたしました。どうぞ、ご自由に」
 

 今すぐどつきたいのをぐっと堪え、優雅に微笑む。
 目を見張った王子を無視して、もうこの会場にいる意味はないと、くるりとドレスを翻して出口に向かう。

 突き刺さる視線。
 止まらないざわめき。

 
 でも、そんな物はどうでもよかった。

 
 これって、王子ルートの、良心を痛める代わりに簡単な攻略法とされる、二つ目の断罪イベント(別名、腹黒ヒロイン開花イベント)ってことでしょー?!

 まさか、まさかまさかっ。

 私、乙女ゲームのラスボスになったってことっ!?

 というより、この記憶はなんなのーっ!?

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