6/3 中編新作公開しました

02 聞こえたのは悪魔の声?

 私、アメリアは気が動転していた。

 婚約破棄をされたという事実よりも、ここは乙女ゲームで、自分は不運な運命を背負ってしまったのではないか……、という不安の方が大きかったからだ。

 そんなの、冗談じゃない!

 どうして私が……っ?
 そもそも、フィルなんて口を利いたこともないのに! 確かに噂とかで耳にしたり、学院でちらっと見かけたことならあるけれどもっ。

 腹黒ヒロインめーー!

 苛立ちにまかせたまま足を進めていると、知った声に呼び止められた。

 
「ファーレスト公爵令嬢!」
 

 ハッとして、足を止めて振り返ると、そこには黄金に輝くふわふわの髪を揺らしながら、こちらに向かって走ってきている、この国の第三王子、クリード・K・ユベールがいた。

 そこでようやく、私は自分の失態を悟る。

 せっかくの誕生祭だというのに、王族に挨拶もせず出てきてしまうなんて……!
 腹黒ヒロインにしてやられたわ。

 
「クリード王子殿下、大変なご無礼、申し訳ございません」
 

 今さら遅いかもしれないけれど、私は深深と頭を下げた。

 
「いいや、あんなことになっては、気が動転するのも当然だよ。兄上が申し訳ない」
 

 困ったように眉を八の字に下げ、クリード王子はそう口にする。

 
「……王子殿下は、ご存知なかったのですか? 婚約破棄のこと……」

「さっぱりさ。むしろ、誰も知らなかったんじゃないかな?」
 

 あっけからんとそう言いつつ、クリード王子は肩をすくめて苦笑する。

 
「おかげで、こっちも混乱してるよ。なにより、父上がカンカンだ」

「そうなのですね……」
 

 まあ、もうどうでもいいけれども。
 とは、口が裂けても言えない。

 
「それで、本当なの?」

「何がでしょう……」

「あのフィル、っていう子をイジメてた、って」

「…………」
 

 なるほど。それでここに来たのね。
 大方、国王様に尋問してこいとでも言われたか。

 ちょっと期待して、損した。

 
「……どう受け取っていただいてもかまいません」

「いいんだ?」
 

 どうせ、私の話なんて聞き耳を持ってはくれない。

 婚約者である私に何の話も聞かず、勝手にヒロインフィルを信用して、勝手に話を進めるような、バカ男だ。まあ、そんなバカなところが、ほんの少しだけ愛おしかったのだけれど。

 もうそれも、過去の話。

 私を敵と見なしたあのバカ男は、あることないこと捏造して、私を悪者に仕立て上げるに決まっているもの。

「ただ、私は……」
 

 グッと顎に力を入れて、前を……クリード王子を見据えた。

 
「王家の顔に泥を塗るようなことは、一切しておりません」
 

 クリード王子が、かすかに目を見張ったのを見て、また深深と頭を下げる。

 
「ご挨拶ができず、申し訳ございません。ですが私は、ここで失礼させていただきたく思います」

「ああ、大丈夫。上手く言っておくから安心して」
 

 どう上手く言ってくれるのか不安ではあるけれども、私は一刻も早く家に帰りたい。
 そして、記憶の整理がしたいっ!

 
「お心遣いありがとうございます。それでは」
 

 くるりと踵を返したところで、小さな……本当に本当に小さな呟きが聞こえた。

 
「ほんと、兄上はバカだなぁ……」
 

 嘲笑うかのような声。

 なぜか、背筋がゾゾっとした。

 私は少しだけ歩みを速めた。気づかれないよう、本当に少しだけ。

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