05 戦闘?なにやらレベルアップしたようです

「お父様、アメリアです」

「……入れ」

「失礼いたします」
 

 お父様の部屋に足を一歩踏み入れた途端、足が床に縫い付けられたように動かなくなった。

 この感じ、久しぶりね。
 私が何かに失敗したり、こ公爵家のためにならないことをしてしまった時に、必ずお父様はこんな空気をまとった。
 

【スキル・威圧が使用されました】

【威圧の効果により、全ての能力値ダウン及び硬直状態となります】

 
 …………ん??
 

 お父様の斜め左。視界の端に映り込む、透明なウィンドウ。

 え、これって……。

 この世界にそっくりの乙女ゲームには、戦闘システムがあった。
 だけれども、そこは乙女ゲーム。
 敵が何のスキルを使用しただとか、どんな効果なのかだとかが丁寧に解説される。

 そう、こんな感じで……戦闘画面の敵側の左上にウィンドウが……。

 て、ちょっと待ってよ!
 スキル?! 威圧!? お父様が!?

 
「聞いておるのかアメリア!」
 

 耳の奥に響くような怒号にハッとする。
 しまった。ウィンドウに気を取られて話を聞き逃した。
 まあ、聞かなくても予想つくけれどね。

 それにしても、スキルが表示されるなんて、これは戦闘なのね?

 絶対に、負けない。

 私はヘソの下に力を入れ、真っ直ぐに姿勢を正すと、臆することなく正面からお父様の視線を受け止めた。

【スキル威圧が解除されました】

 
「今回の件は、私に一切の責任はないと考えます」

「……ほぅ?」

「私は何もしておりませんので」

「王子が虚言を吐いたと言うのか」

「ええ。虚言の上に、王家に尽くす公爵家を蔑ろにした、考えなしの大バカ者です」
 

 ニッコリと笑って言い切る。
 お父様の眉間に深いシワが刻まれた。

 
「お父様こそ、私が悪いとお考えのようですが、証拠はあるのですか?」

「王子が、学院の生徒から証言を取っている」

「あら、王子が決めつけのように聞いていたとしたら……」
 

 ニィッと口角を釣り上げる。

 
「ただの学院生が、私の肩を持つことができると、本気でお思いですか?」

「…………」

「物的証拠がないのであれば、証拠がないのと同じです。同じように証言でいいのであれば、私の身の潔白は、私の親しき者に聞いていただければ証明できるかと」

「はぁ……もういい。今回の件は保留にする。私も頭に血が上っていたようだ」

「わかっていただけたのならそれで」

「こんなしたたかな娘が、そんなヘマを踏むとも考えにくい」
 

 微妙に失礼な言い分に聞こえるけれども。

 
「このように育てたのはお父様です」
 

 ニッコリと笑顔で付け足すと、お父様は頭が痛いと言いたげに額に片手を当てた。
 

「もういい、部屋で謹慎を……」

「そのことですが、私、この家を出ていきますのでご安心ください」
 

 滅多に動揺を見せることのないお父様が目を見開いた。

 
「……なに?」

「もともと、お父様は私を追い出そうと考えていらしたのでしょう?」

「…………」

「私としましても、このような騒ぎになってしまった以上、公爵家の者としてのケジメをつけなくてはと思っております」
  

 まあ、本当は、肩身狭い思いするのも嫌だし、この謎のスキルが気になって仕方がないから試してみたいだけなのだけれど。

 それに、王子の証言一つで何もかもが狂ってしまうこんな場所、前世の記憶を思い出した私からすると、窮屈でしかたがないもの。

 王家への忠誠心も、王子の婚約破棄の一言で吹っ飛んだ。
 代わりにやってきたのは、見返してやるという、ある種の復讐心。
 

「お父様、今まで育てていただいたこと、感謝しております。ごきげんよう」
 

 くるりと背を向けて歩き出す。
 真っ直ぐ、前に向かって。

 扉が閉まる直前、お父様の私を呼ぶ声がしたような、気がした。

 
【レベルが2になりました】

 
 ……本当に、なんなのかしら。

error: Content is protected !!