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06 登場!ザ、悪役!

 あらかじめ用意していた金品の詰まったカバンと、持っている服の中では比較的質素なワンピースに身を包み、私は長年親しんだ公爵家を後にした。

 
 さて、まずはどこに行こうかしら。

 婚約破棄なんてことがあったわけだし、できれば国外に行きたい。
 だけれども、家を飛び出したとはいえ、元公爵家令嬢だ。政治的問題がありそうな近隣諸国は避けたい。念には念を入れておかないとね。何があるかわからないもの。なんたって、不幸の塊アメリアだ。

 考えながら歩いていると、ひときわ冷たい風が吹き抜け、長い髪をさらっていく。
 体の温度までさらわれたようで、ブルリと身震いして両手で自分を抱きしめた。

 まずはいくらか換金。そして宿の確保。
 これからのことを考えるのはそれからね。

 
 サクッと宝石やアクセサリーをお金に変え、店を出る。
 普通に宿に泊まるだけなら何年も暮らせそうだけれど、国外逃亡となるとあまりダラダラしているわけにもいかなそうだ。

【所持金が一千万マニーになりました】

 ウィンドウが表示された。

 何と言うか、便利なシステムね。

 ウインドウ繋がりで思い出したけれど、私のもう一つのスキル、結界。
 あれってどんな効果なのだろう。
 そもそも、このスキルってどう使用したらいいの?
 お父様はスキルを使用していたけれど、あれはスキルというよりクセというか、日常の動作に近い。

 つまり、この世界の人は意図せずスキルを使用しているということ?
 それともお父様がスキルの存在を知っていた?

 失敗した。
 そこだけ確認してくればよかった。

 まあ、過ぎたことを考えても仕方がない。今はとりあえずこの結界の効果が知りたい。

 結界、結界……。
 守るってこと? 障壁みたいな?

 とりあえずウィンドウを表示させようとして、止まる。

 そもそも、どうやって表示させたら……?

 
 私の頭の中に、小っ恥ずかしい乙女ゲームのプロローグが思い浮かんだ。

 主人公がとあるウサギを助けたところから、それは始まる。
 ウサギは突然立ち上がり、丁寧にお辞儀をしてこう言う。
『助けてくれたお礼に魔法の力をあげるよ。さあ、叫ぶんだ! イリュージョンと!』
 ・イリュージョン!
 ・叫ばない

 の選択肢が表示される。

 叫ばないを選択すると、『国は荒れたけれど、あなたは何事もなく人生を終えました。end.』
 と表示され、いいのか悪いのかよくわからないけれど、乙女ゲーム的にはバッドエンドなエンディングが流れる。

 主人公がイリュージョンと叫ぶのはこの一回だけで良かったけれど、もしかして私は毎回毎回言わなくちゃいけないの?!

 グッと覚悟を決め、小さな声で呟く。
 

「い、イリュージョン」
 

 ポンっとウィンドウが表示された。

 あああああ、やっぱりそうなのね。毎回必要なのね。

 羞恥という名の絶望に膝をつきそうになったところ、ぐっと腕をつかまれ、引っ張り上げられる。

 
「……え?」
 

 私の腕をつかんでいる手のさらにその先を見て、顔が引きつった。

 ツンツンした短い金茶の髪に、薄っすらシワが刻まれた皮膚の厚そうな顔。耳の下から顎にかけて無精髭が生えている。全身鍛えているのか筋肉が盛り上がっていて、ザ、悪役、といった感じだ。
 全体的に恐ろしい雰囲気だけれど、目が垂れているのだけが救いというかアンバランスというか……。
 て、なに、この人。

 ここ、質屋の前だし、まさか、強盗?! 

 
「いやっ! 離して!」

「おおぅ、すまんすまん。つい、驚いて。すまんかったなぁ、痛かったか?」
 

 あ、れ……。
 もしかして、強盗じゃ、ない?

 
「い、いえ。すみません、取り乱してしまいました。てっきり強盗かと」

「わっはっは! 強盗! そりゃいい! いい土産話になりそうだ」
 

 ……土産話?
 冥土の土産? いやいや、早とちりは禁物よ。
 でも長話はしないで立ち去ろう。雰囲気が危険人物だもの。
 

「あ、それでは私はこれで……」
 

 そそくさと立ち去ろうと、警戒しつつ背を向けた、瞬間。

 
「お嬢ちゃん、あんた、スキル使いだろう?」
 
「…………え?」
 

 ニヤリと笑う、悪役の顔が、そこに。

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