6/3 中編新作公開しました

13 戦闘開始!危険危険大ピンチ?

「やはり私も共に行こう」
 と言い張るアールス王国王子こと、エルクをなだめすかすのに、三時間は有した。
 まあ、食事しながらだったけれども、しつこかった。

 せっかく見つけた結界持ちだから、心配なのもわかるけれども、待っててくれと言っているのだからもう少し信用して欲しいものだ。

 
 まあ、最終的にはスキルの使い方を細かく解説してくれたからいいけれども。

 この世界のスキル、ゲームの時はコマンド選択だけでよかったけれど、どうも現実だと慣れの割合が大きいようだ。お父様が威圧を使っていたのも、無意識の慣れだったのかもしれない。

 つまり、スキルというのは、思ったり願ったりすれば勝手に発動するのだという。

 まずは体に叩き込まなきゃね。死にたくないもの。

 
「さてと、ひとまず見た目を変えようかしら。冒険するのにスカートは……」
 

 早速、動きやすい服を手にするために、服屋を訪れた。
 が。

 忘れていた。この国では、女性がズボンを履くというのは浸透していない。女性は女性らしく、というのがある種の共通認識だからだ。
 しかたない、なるべく動きやすそうな服にして、逃げ回らなくて良いように結界の力を強めよう。

 適当なワンピースを購入し、今度は武器屋に向かう。
 これまでの人生で、踏み入ったことのない領域。これから先も踏み入ることなんてないだろうと思っていたのだけれど……。
 死の大地に行くのなら、必要よね。

 一通り見て回る。長剣、短剣、弓矢、槍……いろいろあるけれど、持ちやすいのがいい。

 ひとまず短剣を手に取ってみたけれど……お、重いっ……!

 とてもじゃないけれど振り回せそうにはない。
 いろいろと吟味した末、私は扱いやすいナイフを購入した。剣は、そのうち、そのうちね。

 
 一通り身支度を終え、私は国の外へと繋がる門の前へとやって来た。
 このあたりは魔物が少ないと言っても、弱い魔物なら存在する。
 それを討伐する軍もあるし、民間の討伐隊もある。この門から一歩外に出たら、何が起きても文句は言えない。

 はじめて経験する、戦うという恐怖。
 でも、私は生き延びたい。
 大丈夫、デモンストレーションは何度もした。

 まずはそう、レベルを上げないと!

 震える拳を握りしめ、私は門をくぐった。

 とりあえずすぐ帰れるように、門からそう離れていない場所を陣取る。背後は壁だ。これで後ろから狙われることもない。

 けれど、待っても待っても魔物が出ない。
 やっぱり、もっと奥に行かないとダメなのかしら。

 
「……えぇーい、女度胸!」
 

 覚悟を決め、門から左に向かって進んだ先にあるアルノスの森へとやって来た。森の中は魔物が出やすいと有名だ。周囲に気を配って、なるべく慎重に……。

 カザッと音がした。

 さっきまで物静かだったから、心臓が飛び上がる。
 いつでもスキルを使えるように集中しつつ、音がした方を見る。

 すると、草の影から、大型犬くらいありそうな狼が現れた。

【ビーストウルフが現れました】

 ウィンドウが表示される。
 ビーストウルフ、この森の中ではけっこう強い魔物のはず。
 まさかいきなりこんなのに会ってしまうなんて、さすが不幸のアメリア。

 ジリッと睨み合うこと数秒。
 ビーストウルフが後ろ足で大きく地面を蹴った。

 結界……!

 慌てて身の回りに壁をイメージする。

【スキル、結界を使用しました】

 ビーストウルフは私に触れるほんの数センチ先で、何かに弾かれたように後方に吹き飛ばされた。

 
「うそっ、できた……!」
 

 ということは、きっとアレもできる!

 私はビーストウルフを包む立方体をイメージする。
 どうやら成功したようで、ビーストウルフが狂ったように壁に体当たりしていた。

 できた……っ。
 あとは、ここで、あの中に……、調香!

 
 私はこの調香に、ある種の可能性を見いだしていた。
 この調香というのは、香りを作るというより、気体を変化させることができるのではないかと。

 香り、というものは、何もいい香りばかりではない。
 世界には、世にも恐ろしい悪臭が存在する。
 さらには……気体の成分を変えることができるのなら、空気を一酸化炭素に変えたり、有害な気体に変えることもできるはず。

 使い方次第では毒にも薬にもなる、はず!

 私の感が当たっていたなら、どうか……!

 ダメだったらこのまま逃げよう。また策戦を練り直さなくちゃ。

【スキル、調香を使用しました】
 
 
 スキルを使い始めて、けっこう長かった気もする。
 なかなか効果が現れなくて、やっぱりダメかと冷や汗を流した瞬間。

 結界の中のビーストウルフが苦しみだした。

 う、これは、あまり見てて気持ちのいいものじゃないわね。でも、生きるためだ。目を背けることはできない。

 数秒後、ビーストウルフは動かなくなった。
 まずは香りを消してみる。

【スキル、調香を解除しました】
 

「……勝った、の?」
 

 結界を張ったまま、おそるおそる近づく。

【レベルが4になりました】

 ウィンドウが表示された。

 ……勝った。勝った! 手を触れずに勝てた! しかもレベル二個も上がった!

 私でも戦えるということがわかって、嬉しくて。気が緩んでいたのだろう。

【ビーストウルフが現れました】

 
「……え?」
 
「危ない! アメリア!」
 

 叫ぶ声が聞こえて、驚いて振り返ると、もう一匹のビーストウルフが私に飛びかかって来ていた。

 まずいっ、結界……っ。

 焦る私の前に、誰かが飛び出してきた。
 銀の髪がなびき、チラリと流し目でこちらを見る紫の瞳。
 白く透き通るような横顔は、戦闘だからなのかいつもよりも眉が上がって凛々しく見える。

 その人は、手に持っていた剣で、いとも容易くビーストウルフを切り裂いた。

【ビーストウルフを討伐しました】

 途端に静まり返った森に、重たい沈黙が流れる。

 
「エルク、様……」

「…………」
 

 目の前にいる妖精のような男は、気まずそうにサッと視線をそらした。

 
「付いてきて、いたのですね?」
 

 エルクはギクリと肩を震わせた。
 怒られると思っているのか、しゅんと肩を落とす。

 
「余計な手出しをするつもりはなかったのだ。すまない」
 
「…………」

「何かをしたいのはわかっていた。なるべくそれを尊重したいとも思った。だが、主は、剣も握ったことはないだろう?」
 

 そう言って、少し悲しげに目を伏せたエルクは、私の手を取った。豆ひとつない私の手のひらを、じっと見つめる。

 もしかして、最初からわかっていたのだろうか。
 私が、戦いの練習をしようとしていると。
 だからあんなに、自分も行くと言っていたというの?

 
「私に、戦って欲しくないと、そう思っているのですか」

「そうだ。この国の身分の高い娘は、戦いに参加することはないと聞いた」

「そうですが……」

「それに」

「…………」

「綺麗な手だ」
 

 私の手を見て、屈託のない笑みを浮かべる。

 まったく、本当に、大バカだ。

 確かに私は生き物を殺したことはないし、戦闘とは無縁だった。それは前世でだってそうだ。

 それでも、北の大地に行くと決めた時に、ある程度の覚悟は決めた。

 
「……本当に、しかたのない人ですね」

 
 そう言って力なく笑うと、エルクはわずかに目を見開いて、少し照れたように微笑んだ。

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