15 どうやら私は厄災の塊のようです

 調香が、厄災をもたらす?

 調香って香りを生み出すだけのはず。どう考えてもエルクのスキルの方が危険よ。だって、人を操るのよっ? まるで悪魔の力だ。

 私の戸惑いを察知したのか、マルクがどう説明しようかと悩んでいるかのような苦笑を浮かべながら、ガシガシと首の後ろをかいた。

 
「お嬢、調香持ちが現れる時というのは、いつも時代が荒れたんだ」

「と、言うと?」
 

 マルクの言葉を引き継いで、エルクが過去の記憶を思い出すように視線を上に向けた。

「その香りに惑わされ、争いが起きた、と書物にあったな」

「逆に、その香りで街を死の街に変えた、とかもありましたよ」

「魔物が活性化したのも、調香持ちのスキルだったという文献がある」

「一つの国が滅んだとか、逆に富を得たとかもありましたね」
 

 私は、口もとがひくりと引きつって行くのを感じた。

「まあ、とにかくお嬢、調香持ちが現れると時代が変わると、そう言われてるってことだ」
 

 豪快な笑顔で言い切るマルクに、エルクが神妙な顔でうなずく。
 

「うむ、調香持ちは、いつも厄災の前に現れる」
 

 私は目眩を覚えた。

 待って。まさか、結界よりも調香の方が危険なスキルなの?

 確かに、フェロモン香水だとか、催淫効果のある香りもあると、聞いたことはある。
 他にも、今私がやったみたいに人を殺すことだって……。魔物の活性化は……もしかして、食欲をそそる香り?
 幻覚作用をもたらす臭いなんかもあったりするし……使い方次第では、かなり危険ね。
 嗅覚は五感を司るもの。

 さらに私は結界を持っているし、自分だけ安全圏にいることや、逆に狙ったターゲットだけを仕留めることもできる。
 
 
「…………」
 

 考えれば考えるほど、自分が危険な存在な気がしてきた。

 ゲームのアメリアが北の大地でどんな運命をたどったのか、こんなにも知りたいと思ったことはない。
 あの最後に表示された、こちらを睨むおぞましい顔。いったい、ゲームのアメリアの身に、何が……。

 ダラダラと冷や汗を流す私の肩を、エルク落ち着けとばかりにポンと叩く。
 

「調香持ちであるということは、伏せた方がいいかもしれぬ」

「そ、そう、ね」

「調香は、富をもたらすことも、争いをもたらすこともできる」

 
 まるで危険な時限爆弾ね。
 いつ爆発するかわかったもんじゃない。

 
「エルクたちは、そんな危険因子を国に持ち込んで、大丈夫なの?」
 

 争いの火種を持ち込むなんて、無謀と言えるけれども。私なら拒否する。そんな危険な爆弾。国に一歩たりとも入れたくない。

 エルクとマルクは顔を見合わせ問題ないとうなずいた。

 
「別に、調香持ちが悪いわけではない」

「そう、なの?」

「調香持ちはいつも、時代の権力者たちに狙われて来たと言うだけの話。主の身は私が守る。案ずるな」
 

 大丈夫、だと思う、けれど。死の大地だからね。

 私は、自分の結界の力を強めることを決意する。

 やっぱり、自分の身は自分で守ろう。

 いつでもどこでも守ってもらうなんて、柄じゃないもの。それに、エルクがいない時に襲われたら死亡確定なんて、そんな運命は嫌!

 せめてレベル10は必要ね。
 まあ、北の大地までかなり距離はあるし、どんなに急いだとしても半年はかかるはず。道すがら魔物を倒せば、レベル30くらいにはなるだろう。
 それに。この世界の海を見るのはじめてだ。
 旅というのも、したことがない。

 すこーしだけ、ワクワクしてくる。

 
「エルク様、お嬢のレベル、どうされます?」

「あ、それだけれど、レベル10くらいになったら、あとは行きながらでもいいわ」
 

 私がそう言うと、エルクは小首を傾げた。

 
「ここを出たら、数日後にはアールス王国だが、よいのか?」

error: Content is protected !!