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17 称号、捨てられし者

 アールス王国に着いてすぐ、あれよあれよと言う間に、私は今の結界持ちの人と会うことになった。

 こ、これじゃあ観光どころじゃないわね。どんな造りの建物があるのかとか、気になるのに。

 マルクとアルジュと別れ、エルクに連れて来られた場所、そこは王宮の奥まった場所にある、誰かの部屋だった。

 エルクが扉をノックするのを眺める。
 うーん、扉とかに大きな差はない。見かけた人も同じ人間だったし、スキルを認識しているだけで、実際はそんなに変わりはないのかも?

 
「アメリア」
 

 観察している間に、エルクに呼ばれる。

 私は意を決して部屋の中に足を踏み入れた。

 
「失礼いたします」
 

 その人がいるのだろうと思われる、部屋の奥にある天蓋付きのベッド。

 エルクがそっと、布を避けると――

 
「……っ」
 

 エルクが、固まった。

 どうしたのだろうと思っていると、エルクの白い手を、骨の浮き出たしわくちゃな手が、ガシッと掴む。

 
「ふぉっふぉっふぉ、エルク、ワシがくたばったと思うたか?」

 
 しわがれた声。でも、凛としていて、強い声。自然と背筋が伸びた。

 
「おばば、生きてたか!」

「なぁに、このとおり、ピンピンしとるわい!」
 

 エルクの弾けるような満面の笑みが炸裂する。

 って、あれ?
 結界持ちって、もう長くないから私が必要なんじゃなかった?
 なんだろう。声はけっこう元気だけれど。ま、まあ、いきなりこの国の結界全てとか言われても困るし。ねぇ?

 ……なんだろう。
 なんだかすごく、嫌な予感がする。

 エルクの横顔をじーっと見ていると、エルクは私の存在を思い出したようで、私の背中を優しく押した。

 
「おばば、結界持ちだ」

「結界持ち?」
 

 突然前に出されて驚きつつも、そこは元貴族。冷静を装って恭しく礼をする。

 
「アメリアと申します」

「ほぅ、なかなかの美人じゃの。どれ、ちこう寄れ」
 

 近づいて、真っ直ぐその人を見る。
 色の抜けた髪。背筋は少し曲がっているけれども、まだ意志の強さを宿した瞳。

 この人が、この国の生命線。
 凛とした空気が綺麗な人。

 
「どれ、手を見せぃ」
 

 手? と思いつつも、手を差し出す。

 そして、老婆が私の手に触れた瞬間、カッと目を見開いた。その変わりように驚いて身を引く。

 老婆は途端に目を釣り上げ、突然癇癪かんしゃくを起こしたかのように、まるで私を拒否するかのように、両腕を振り回す。

 
「おまえの居場所などない! 出ていけ!」

 
 ……は、はぁぁ?!

 私は呆然と老婆を見つめる。
 なになに、どういうこと?!
 とっさにエルクを見ると、エルクも予想外だったのか、ギョッとした顔をしていた。

 
「す、すまない、アメリア。事情が変わった。少し待っててほしい」

「い、いいけれど……」
 

 訳もわからず、実質部屋を追い出される。
 広い廊下に放り出され、呆然と立ち尽くす。

 なにこれ、まさか、骨折り損のくたびれもうけ?
 どういうこと!?

 
 しばらく廊下でぼんやりしていると、エルクが部屋から出てくる。
 その表情は、苦虫を噛み潰したような顔で、私はなんとなく自分が不要になったのだと悟った。

 それなりの覚悟を決めてここまで来たのに。
 死の大地よ? 私にとっては、一大決心よ。

 はぁ、婚約破棄はされるし、ここでも不要物扱い。

 ついてないなぁ……。

 
 そして、エルクに言われるままに、その後をついて行く。
 ついた先は、おそらくエルクの自室だろう。
 広い広い、部屋に、ソファ、テーブル、ベッドなど、簡単な物だけが置かれていた。
 あ、剣だけはたくさん飾られている。

 エルクは部屋の中心にあるソファに腰を下ろし、それぞれの太ももに肘をのせ、組んだ指先に額を寄せた。
 ずーーんと効果音が聞こえてきそうだ。

 何を言いたいのか、なんとなくわかっている。
 切り出せないのは、エルクが優しいからだろう。

 
「私は不要だと、そう言われましたか?」
 

 エルクが、泣きそうな顔をして顔を上げた。

 それを真っ直ぐ見つめ返す。
 情けない顔。王になるんじゃないの? 継承権持ちなのでしょう? こんなことで泣くなんて、情けないったらありゃしない。

 
「前任者であるおばばに認められないと、結界持ちの任は、任せることができない」
 

 そんなことだろうと思った。
 私は認められなかったわけだ。
 まあ、確かに、この国全てに結界を張ってくれと言われて、できるかと言われたら無理だと思う。
 当然といえば当然の成り行きなのかもしれない。

 なるほどね。ゲームのアメリアは、結局追い出されたわけだ。
 そして、この死の大地で死んだのかも。
 それなら全て納得だ。

 
「ここに居ることは、できないのですか」
 

 そう問いかけると、エルクは今度こそ泣き出してしまいそうな顔をした。

 
「それは…………」

「できないのですね」

「……うむ」
 
 
 

『案ずるな、私が守る』
 
 

 そう言って、くれたのに。

 結局は、ウソじゃない。

 
 本当に、不運なアメリア。
 身に覚えのない悪名を着せられ、婚約破棄されて、死の大地と呼ばれる大陸まで来て、そして捨てられる。

 やっぱり、自分の身は自分で守るしかないのよ。

 
 
「……わかりました。すぐに荷物をまとめて出ていきます」

「…………」

「ごきげんよう、エルク様」
 

 エルクが、ハッとした顔をして私を見たのが、視界の端に映り込んだ。

 
 私は、振り返らなかった。
 
 

 悔しい。

 信じたのが、バカみたい。

 あの目には、あの純粋そうな目には、嘘なんてないと、思っていたのに。

 何とかしてくれるんじゃないかと、そう思ったのに。
 
 

 でも、それでも憎むことのできない私が、一番の大バカよ――
 

『アメリア』
 

『災難だったな』

 
 その声が、耳からこびりついて取れないなんて。
 

 ほんと、バカ。
 
 
 
 
 
【称号、捨てられし者 を獲得いたしました】

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