6/3 中編新作公開しました

18 現れたのは悪魔?救世主?

 泣かないように、グッと奥歯を噛み締めて、私はアールス王国王宮を後にした。

 外から見た王宮は、白銀に輝いていて、そしてとても大きくて。私という存在がいかに小さいかを思い知るようで、よけいに泣きたくなった。
 

 エルクと一緒にいたのなんて、たったの数日なのに。本当に、人の心に入り込んでくるのが上手な人だ。

 簡単に心を許して、力になりたいなんて思って。

 でも結局、不要だと切り捨てられて。
 引き止めてもらえなかったことが、哀しくて。

 でも、なによりも、そんなことを思ってしまってる自分に、驚いている。

 あの屈託のない笑みを、もう見ることはできないんだと思うたびに。

 もう二度と、会うことはないのだと、そう思うたびに。

 胸の奥が、ジクジクと痛むのだ。

 
 婚約破棄をされた時よりも、よっぽど心が痛いのは、どうしてだろう。
 エルクよりも、あの大バカ王子と一緒にいた時間の方が、遥かに長いのに。

 どうしてこんなにも、泣きたくなるのだろうか――。
 
 
 
 

 王宮を出て、行くあてもなく、のろのろと歩く。
 目に映るもの全てが新鮮なはずなのに、何だか今は、くすんで見えた。

 出て行けといわれても、どこへ行こう。
 右も左もわからなければ、ココは、死の大地だ。
 生きていける保証なんてない。
 いや、それでも、生きなきゃ。

 ゲームと同じ破滅ルートなんて、そんなの納得いかない。
 破滅ルートだとわかっていながら、ホイホイ死の大地に着いてきてしまったのは、我ながらバカだとは思うけれども。

 それもこれも、エルクのせいだ。

 あの純粋そうな瞳に、すっかり絆されてしまった。

 まあ、最初の計画を、全部白紙に戻したと思えばいい。元々国外逃亡して、調香でお店でもやろうと思っていたのだから。

 
『調香持ちは、厄災をもたらす』

 嫌なことを思い出してしまって、それを振り切るように首を横に振る。

 あんなの、後世の人が勝手に言ってるだけだわ。歴史なんて、後からコロコロ変わったりするもの。

 私は私の人生を生きるだけよ。

 再び気合いを入れ直して、あらためて街の中を眺めてみる。

 活気があって、賑やかな街だ。
 どちらかと言うと、露店が多いのね。
 ふらっと近づいて、店を眺める。骨董品屋かしら。なんだか見た事のない柄の壺や皿が並んでいる。

 
「へい、嬢ちゃん! 美人だねぇ、買ってくかい?」

「あ、ええと、すみません。あまり見た事なかったものだから……」
 

 ちょっとしおらしく笑ってみせる。

 
「おお、そうかい! ならゆっくり見ていきな!」
 

 曖昧に笑いながらうなずいた。

 まずい。

 ……値札に書かれている通貨、見たことがない。なに、あの文字。私の知ってる通貨はマニーよ。それ以外知らない。

 まさか、このままだと私、最悪餓死する可能性がある?!

 
 曖昧に笑いながら骨董品屋を後にして、またフラフラと歩き出す。

 どうしよう。お金、お金がないとなにもできない。
 マニーって使えるの?
 まあ、使えなくても、宝石はまだあるから、それを売ればなんとか――。

 
 グルグルと考えながら歩いていると、突然パシッと、後ろから手を取られた。

 
「見つけた。もう、ウロウロしないでよね」
 

 驚いて振り返ると、そこには、黒髪と赤い目が。

 
「アルジュ?!」

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