20 レベル100ってあなたは正気ですか?

『アメリア、王がどんなにバカだとしても、おまえだけは見捨ててはいけない。それが国の母たる王妃の役目だ。おまえが、王を、民を導くのだ――』

『はい、お父様』
 
 
 突如、あの大バカ王子との婚約が決まった日のことを思い出した。

 それまで、私と大バカ王子は幼なじみだった。王子のあまりの出来の悪さを、私がいつもフォローしていたほどだ。
 それを見ていた王やお父様が、もう私に押し付けてしまえばいい、と思ったのかは定かではないが、私は王子との婚約が決まり、その日にお父様に言われたのだ。

 王が迷っている時は、さりげなく手を差し伸べて、国を、民を守るのだと。
 

 
 
 私は、目をそらしたまま口を開こうとしないエルクの前まで、ゆっくりと歩いていく。
 目の前までいくと、エルクはびくりと肩をすくませた。
 そして、私は、そんなエルクに向かって、大きく手を振り上げた。

 パーン! と乾いた音が響く。

 頰を思いっきり叩かれたエルクは、左頬を右手で押さえながら、呆然とした顔で私を見た。
 真っ白の頬が、赤く染まっているのが暗がりでも見える。

 
「おい、お嬢……っ」

「黙って!!!」
 

 声を張り上げて一括すると、マルクはピタリと動きを止めた。
 途端に、重たい沈黙が流れ、一帯が静まり返る。

 エルクに視線を向けると、大きな瞳を見開いたまま、ビクリと体を震わせる。
 怒られると、わかっているのだろう。
 

「エルク様、あなたの判断ミスで、一人の女性の運命が大きく狂わされたことを自覚していますか」

「う、うむ。すまなかった」

「王はどんな時でも正しい判断をしなければなりません。もし仮に戦場だったなら、あなたのこの一つのミスで、多くの兵が死んでいたことでしょう」

「…………」

「街の結界が切れることを危惧したのはわかります。ですがそれでも、あなたは確認を怠るべきではなかった、そうですね?」

「主の言う通りだ」
 

 しゅんっと肩を落とす姿を見て、大きく息を吐き出す。

 
「他の結界持ちを探すことはできないのですか」
 

 エルクはたっぷり間を空けて、できると答えた。

 なんだ、代わりはいくらでもいるんじゃない。
 なら、別に、私でなくとも――

 
「だが、私は、こんな形で主と別れたくないと思った」

「…………」

「この国の結界は、主に頼みたい」
 

 本当に、ストレートにハッキリと言う人ね。

 
「戦って欲しくないと言ったのに、私に戦うことを望むのですか」
 

 エルクは一瞬、うっと詰まって、やがて観念したように、細く長い息を吐き出す。

 
「そうだ」
 

 ハッキリとした声だった。
 今までの動揺なんてどこかに忘れてきてしまったみたいに、エルクは、大きな瞳で真っ直ぐ私を射抜いた。
 

「私のために戦ってくれ、アメリア」

 
 自分勝手な人。
 だけど、王とは自分勝手な生き物だ。家臣が王のわががまに振り回されることなんて珍しくない。

 本当に、一番の大バカは私ね。間違いない。
 こんな目に遭わされて、散々な思いをして、それでも自分から裏切ることができないのだから。
 これも公爵家の血なのかしら。君主に尽くしてしまう宿命なのかもしれない。
 

「レベルは、いくつ必要なのですか」
 

 エルクが、パッと顔を上げた。大きな瞳がキラキラと輝いている。
 

「なんと、引き受けてくれるのか?」

「まずは答えてください」
 

 エルクは途端に肩を落とした。
 なにこれ。嫌な予感がするんだけれど。

 そして、おそるおそると言いたげに、エルクは口を開く。

 
「……100だ」

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