22 魔人、アルジュ・フォン・ディークラント

 国に残るエルクとマルクに別れを告げ、私はアルジュと共に旅立つこととなった。

【アルジュ・フォン・ディークラントが仲間になりました】

 表示されたウィンドウをちらっと確認して、数歩前を歩くアルジュの背中を見る。
 短い髪から、惜しげも無く尖った耳を見せている。
 魔人、と言っていたけれど、この国をざっと見た限りだと他に魔人なんていなそう。

 魔人って、いったい何なのかしら。

 アルジュの背中を見ながら歩いていると、突然アルジュが私を後目に見た。赤い瞳が、ちらりとのぞく。

 
「まさか、アンタと旅することになるとはね」
 

 相も変わらず無礼な言い草に、私も敬うことなく話そうと決めた。

 
「もう二度と会わないとか、言ってなかった?」

「その時は、こんな事になるなんて思ってなかったでしょ」
 

 まあ、同感。
 私もこんなことになるなんて思ってなかった。

 まさか、果てのないレベル上げの旅だなんて。
 下手したら私の人生それで終わってしまいそうだ。
 いったい何年かかることやら。
 というか、ゲームのアメリアはこのレベル上げの途中で死んだ可能性もあるし、気をつけないと。

 
「全く、エルクに巻き込まれてばかりよ」
 
「王子はバカだからね」

「確かに」

「でも、だからこそ、人が集まるんだよ」

「…………確かに」
 

 放っておけないというか、突き放せないというか、なんというか……。
 それも一種の才能なのだろうか。
 指先ひとつ動かさずに、あれもこれもやってのける人種という感じだ。

 
「で、これからアンタは、どこに行きたいの」

「どこって言われても……」
 

 レベル上げって言っても、旅をすればいいのかひたすら魔物を倒せばいいのか。

 そもそも、ここ以外にも国はあるのだろうか。
 どうせなら、いろいろ学びながら旅をしたいけれど。常に学び続けなさいと、日頃から言い聞かせられてきたし、それは損にはならないと私も思うし。
 

「国に帰りたいと言うなら、連れて行くことだってできるけど?」
 

 私は、アルジュを見た。
 アルジュは小さく笑って、魅惑の言葉を吐く。

 
「アンタは死んだと言えば、それで終わり」

「…………」

「どうする?」

「……私は、一度決めたことはやり遂げるの」
 

 ふんっと顔を背け、アルジュの一歩先を歩く。
 そんな私の背後から、楽しそうな声が聞こえた。

 
「ふーん? 王子のこと、好きなの?」
 

 ビシッと空気が固まった。

 
「は、はぁ?!」

「王子、モテるよ」

「…………」

「あの顔だし、抜けてるし、いつも女侍らせてる」

「へ、へぇー?」
 

 腹の底から湧き上がるこの苛立ちはなんなのだろうか。
 この世界では感じたことのない感情だ。

 ずいっと、アルジュが私の顔をのぞき込んでくる。

 
「妬いてる?」

「なっ、そんなわけないでしょ! だいたい、会ったばかりよ!」

「人を好きになるのに時間は関係ないって、誰かが言ってたけど」

「わ、私はあるのよ! とにかくっ、違うったら違うの」

「ふーん? 好きでもないのにこんな事するだ? 人間って不思議」
 

 首を傾げるアルジュを横目に見て、ふいと視線をそらす。
 アルジュと話すと、疲れるっ。

 
「で、どうする? 行きたいところあるなら、連れて行くけど」

「……どこにでも行けるの?」

「まぁ、だいたいは」

「そう……」
 

 エルクが、移動は一度訪れたところなら行けると言っていた。だいたいって、そんな各地に行ったというの? この尖った耳で?
 ジーッとアルジュを見ると、「なに?」とアルジュは冷めた目で見つめてくる。

 
「ねぇ、聞いてもいい?」

「内容によっては」

「魔人って、何歳まで生きるの? アルジュは今何歳?」

「魔人はだいたい三百歳。俺は今……百五十くらい?」
 

 年齢を記憶してないのか、アルジュはちょっとだけ思い出すように首をひねった。
 それより百五十って……私の約10倍じゃない。

 
「アルジュ……あなたおじいちゃんだったのね……」

「……やっぱり死んだことにする?」
 

 ニッコリと笑って、アルジュはどこからともなく鎌を手にする。
 って、鎌?!

 
「冗談に決まってるでしょう?! それより、何その鎌!」

「俺の武器。呼び出し自由自在なんだよね」

「移動の力?」

「そう、よくわかったね」

「まぁ……」
 

 四次元ポケットのようなものという事だろう。説明しても伝わらないだろうから言わないけれど。

 
「それより、アンタレベルいくつなの」

「…………10」

「…………」
 

 せめて何か言ってよね?!
 アルジュは大袈裟にため息をついた。

 
「アンタ、よくここに来ようと思ったね」
 

 私もレベル上げたいとは言ったけれどね?

 
「ココの魔物、そんなに強いの?」

「まぁ、だいたいレベル40ってとこ?」

「40?!」
 

 待って、私一歩外に出たら即死じゃない?
 街から出られないって、どんなRPGゲームでもありえない。

 アルジュはやや眉を寄せ、目を細めて沈黙する。
 何か、考えてる?

 
「アンタ、一応戦えるの?」

「えーと……」
 

 調香のこと、どうしようかなと迷ったけれど、エルクが付けてくれたお供なのだから大丈夫だと判断して、自分のスキルを告げた。

 
「へぇ、アンタ、調香持ちだったんだ?」

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