23 厄災と調香の真実?

「アンタが調香持ちね、へぇ」
 

 隣を歩くアルジュが意味ありげに見つめてくる。
 調香持ちは厄災を招く危険因子である、ということはエルクたちから聞いていたから、いったい何を言われるのかと少しだけ身構えた。
 そんな危険なのと一緒に旅したくないとか言われたら、少し堪える。これからどれだけ長い時間、共に旅をするのかわからないのだから。なるべく平穏に行きたい。

 
「な、なによ」

「いや? 王子が手放そうとしないわけだ」
 

 サクッと、背後から言葉のナイフが突き刺さった気がした。
 なによそれ。エルクは私が調香持ちだったから、だから手元に置いておきたかったってこと? 危険因子だから? なるほどね?

 そういうこと。
 

「なに? 顔、不満そうだけど」

「別にー。どうせ厄災を招く危険因子ですからねー」
 

 不思議そうに見つめてくるアルジュの視線から、ふいと逃れる。
 なぜかわからないけれど、胃の奥がムカムカしてくる。ああ、こんなことならもう一発ビンタしておけばよかった。なんなら往復ビンタでもしておけばよかったわ。

 
「厄災? なんのこと」

 
 私の言葉を受けて、理解ができないとばかりにアルジュが首をひねった。
 

「エルクが、調香持ちは厄災を招くって言ってたわ」

「ああ、それ、違うけど」

「……はい?」

「聞こえなかった? だから、それ、間違ってる」
 

 アルジュはあっけらかんと答える。そんな大したことないみたいなノリだけれど、待って?
 間違ってるって、どれが? なんのこと?
 せめてしっかり主語をつけて?

 
「違うって、何が……」

「だから、調香が厄災を招くってやつ」
 

 驚いて足を止めてしまって、後ろを歩いていた人とぶつかってしまい、すみませんと謝る。
 呆れた顔をしつつもアルジュはさり気なく私の後ろに回って、前を歩くように目だけで促した。
 私は再び歩きながら、チラリと目だけで後ろのアルジュを見る。

 
「でも、エルクが……それにマルクだって」

「二人とも、知らないんじゃない? 生きてなかっただろうし」
 

 そうか。アルジュは百五十年生きているんだっけ。過去の調香持ちと会ったことがあるとか? それで調香のことを知ってるの?

 
「それにしてもアンタ、こうなってくると、なかなかに波乱万丈な人生じゃん」

「う……、まあ、そう、ね」
 

 婚約破棄から始まって、前世の記憶開花にスキルに死の大地に果てのないレベル上げ。
 この短期間でこうも生き方が変わる人なんて、そうそういないんじゃないだろうか。
 なんだかんだ生きていけているのだから、ある意味すごいと我ながら感心してしまう。

 
「調香も結界も相当レアスキル。さらにそれの二個持ち。どんな権力者も目を輝かせるよ」

「そう、なの?」

「知らない? アンタの言う厄災は、過去の調香持ちがはね退けて来たんだよ」

 
 調香持ちがはね退けてきた?
 でも、調香持ちが厄災を招くと言われていて……。

 もしかして。

 
「調香が厄災をもたらすのではなく、厄災が調香を呼ぶってこと?」

「アンタ、物分かりいいね。貴族だっけ」

「……元、よ。今は貴族でもなんでもないわ」
 

 ふんと鼻を鳴らして、真っ直ぐ前見て街の景色を見ながらも思考を巡らせる。

 厄災が、調香持ちを呼ぶ?
 死の大地に向かったゲームのアメリアは、明確には語られていないけれど、何か悪いことがあったのは確実で。主人公を恨んでいる。
 あのゲーム、乙女要素ではないストーリー部分、どんなのだったっけ。

 
「難しい顔してるけど、行きたい場所決まった?」

「う……」
 

 痛いところ突かれて、言葉に詰まる。
 そもそも、この大陸に何があるのかを勉強しないと。街の名前も国の名前も、そもそも国があるのかすらもわからない。行きたいとこもなにも、あったもんじゃないわ。

 
「ないなら、俺のとっておきの場所、あるけど」

「とっておき?」
 

 ……怪しい。
 じーとアルジュを見ると、アルジュは呆れたようにため息をついて肩をすくめた。

 
「俺としても、アンタにはさっさとレベル上げて欲しいわけ」

「まあ、そうよね。わかったわ。アルジュの言う通りにする」
 

 そう言い切ると、アルジュは少しだけ意外そうに私を見下ろした。

 
「……なに?」

「なんでも」
 

 アルジュはふいと視線をそらすと、今度は誘導するように前に立ち、街の中を歩いて行く。

 
「どこ行くの?」
 

 アルジュの背中を追ってそう問いかけると、アルジュは振り返って、ゆっくりと唇を釣り上げた。
 

「すぐにレベル上がる場所」

error: Content is protected !!