24 応用スキルなんて初耳ですが?

 なんと世の中には、すぐにレベルが上がる場所、というチートな場所が存在するらしい。
 
 アルジュの移動スキルによって連れてこられた場所、花の匂いは一切しない広い広い草原。
 膝の下ほどの背丈の草がびっしりと生えていて、草の匂いが鼻腔をくすぐって爽やかな空気が肺を満たす。
 私は好きだけれど、か弱い令嬢は嫌がりそうな場所ではある。だって、なんだか芋虫とか隠れていそうだもの。

 さらに、一面に生えている草は、前世で見たことのあるような迂闊に触れるとスパッと切れる包丁のような草だ。
 いいけれどね? もう令嬢でもないし、肌に傷がつこうがなんだろうが死ななければそれでいい。

 
「ここ?」
 

 ぐるっと草原を見回しながらアルジュに尋ねる。

 
「そう。ここ、レアな魔物が出るんだよね」

「レアな魔物?」
 

 そもそも、この草原は死の大地なのだろうか。
 アールス王国とは空気が違う気がする。ここは爽やかな初夏のような空気だけれど、さっきまでいたアールス王国は秋というか初冬というか、少しの肌寒さを感じる気候だった。
 私は着ていた黒いマントを払いつつ、いつ敵が来てもいいように集中する。
 それにしても、暑いところなら暑いと、前もって言ってよねっ?
 
 ふーっと深く息を吐き出して、無駄な思考を追い出して精神統一。

 聞きたいことも文句も山ほどあるけれど、アルジュは楽しそうに笑みを浮かべていて助けてくれる気配はなし。
 まるで、お手並み拝見と言わんばかりだ。

 いいわ。調香と結界があれば、手を触れなくとも――

【メタルキャタピラーが現れました】

 ウィンドウが表示されたと思った瞬間、

 
「きゃっ」
 

 何かが目の前を横切った。

 は、速いっ?
 目で追えなかった。まさか、今のが魔物!?

 というか、キャタピラーって、芋虫型の魔物!? しかもこれ、まさか飛んでるっ?
 出そうとは思っていたけれど決して好んで会いたい魔物ではない。
 

「ほら、早速でた」

「メタルキャタピラー?」

「なんだ、知ってたの?」
 

 しまった。ウィンドウに表示されたから、つい。

 
「アールス王国に来る前に、魔物のこと少し勉強したのよ」
 

 息をするように嘘を吐く。
 アルジュは特に変に思わなかったようで、「なるほどね?」とうなずいていた。
 よかった。さすがに、ここはゲームと同じで、私は変なウィンドウが見える、とは言えない。
 そんなことを言ったら完全に頭のおかしい人だ。

【メタルキャタピラーが現れました】

 また?

【メタルキャタピラーが現れました】

【メタルキャタピラーが現れました】

【メタルキャタピラーが現れました】

【メタルキャタピラーが現れました】

 ちょ、ちょ、ちょっと待って!?

 
「あ、アルジュ」

「なに?」

「こ、ここって……」

「メタルキャタピラーの住処。手っ取り早いでしょ?」
 

 顔が引きつりそうになるのを堪える。
 さっきからウィンドウがずっと表示されているのだけれど?!
 待ってよ、一体何体いるの? 

 
「じゃ、あと頑張って」

「えっ」

「なに? アンタが倒さないと意味ないじゃん」
 

 そうだけど。その通りだけどっ!
 こいつ、間違いなく鬼畜だ!

 楽しそうにニヤニヤしているアルジュを強く睨みつける。

 見てなさいよ?!

 覚悟を決めて一歩前に出る。
 

【スキル、加速が使用されました】

【メタルキャタピラーのスピードが30%上昇しました】

【スキル、加速が使用されました】

【メタルキャタピラーのスピードが30%上昇しました】

【スキル、加速が使用されました】

【メタルキャタピラーのスピードが30%上昇しました】

 
 ええーい、鬱陶しい!

 速いし、顔の前とか足の隙間とか何かが通る気配はするけれど、特に攻撃して来る気配もないし、これはきっとアレね。逃げ足の速い、レア級のレア、経験値ボーナスモンスター。
 悪いけど、経験値は全部もらって行くわ。

 攻撃してこないのなら戦いの練習もできるだろうかと、一旦戦法を考える。

 今までの私の戦い方は、敵を結界の中に閉じ込めて、調香で息の根を止めるというものだ。
 でも、それだと不意打ちの攻撃に弱いのよね。なにせ、調香も結界も使ってしまっている。
 今みたいに数が多くて速い敵には不利だ。
 うーーん、何かいい手は、と考えて思いつく。

 二重結界、できるかしら。

 私は、振り返ってアルジュを手招きする。
 私の隣に立ったアルジュは、少し顔をしかめた。

 
「なに。助けないよ?」

「わかってる。でも、離れてると危険だから」
 

 一度深呼吸をして、神経を集中させる。
 二重結界。まずは、私とアルジュの周りに、結界を――

【スキル、結界を使用しました】

 できた?
 それじゃ、次は、それを上回る、大きな結界を……。
 見える範囲まで覆う壁をイメージする。逃げる隙間なんて、どこにもないような、全てを覆う壁を。

【スキル、結界を使用しました】

 
【スキル重複使用により、応用スキル、二重結界を会得しました】

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