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28 婚約者だなんて、聞いていません

「何してるの?」
 

 ぼんやりしていた頭に、声が響いてハッとする。
 消えていた音や色が急速に戻って来るのを感じた。

 声の方に視線を向けると、先を歩いていたアルジュが少しの苛立ちをにじませながら、来た道を戻ってきていた。

 
「アンタ、歩くの遅すぎ」

「ご、ごめんアルジュ。ちょっと……」
 

 アルジュに腕をつかまれて、チラリと視線だけでクリード王子を見る。アルジュも気づいたようで王子を見た。

 
「誰?」

「それはこちらのセリフ」
 

 バチッと火花が散ったのが見えた気がした。
 うわぁ、この二人、絶対相性最悪だ。

 
「その手、離してくれる? 彼女に触らないで」

「はっ、なんでアンタに命令されなきゃいけないわけ? 死ぬ?」

 
 げげ、こわっ。
 というか、アルジュ本気で怒ってる? 真っ赤な目の瞳孔が開いてるように見える。これじゃ兇人、殺人鬼だわっ。

 
「ちょっとアルジュっ」

「なに」

「この方は、クリード・K・ユベール王子殿下」

「王子? へぇ、俺の王子とは随分と毛色が違うようだ。アンタ、ホントに人間?」
 

 うわぁ、王子だと言ったのにこの態度。さすがアルジュ。むしろさらに敵意バチバチ。

 
「それはこちらのセリフだね。その耳、魔神でしょ」

 
 私はクリード王子が魔人という言葉を知っていたことに驚いた。しかも、耳のことも知っていたなんて。もしかして、王族は魔人のこと知っていたの?
 私が二の句が継げずにいると、アルジュは鋭い目を細めてクリード王子を見定めるように見た。

 
「この辺の人間で、魔人を知ってる者なんていないと聞いてたけど?」

「……、別に、知ってる人間もいるってことさ」

 
 オロオロとアルジュとクリード王子を交互に見る。
 なになに? 何この空気っ。どうしたらいいのー!?

 戸惑っていると、クリード王子と目が合う。
 そして、クリード王子は私に手のひらを向けた。

 
「ファーレスト公爵令嬢、帰ろう。僕は君を婚約者にするつもりだ」

「はい?」
 

 えっ、聞いてませんけど?
 

「父上も、君の父であるファーレスト公爵も承知している」
 

 えっ、なんで勝手に決めてるのっ?

 家出てったのに婚約者って、頭おかしい。
 そもそも、あの騒動からどうして私が婚約者?

 私、婚約破棄された身ですけどっ?

 ちょっと待って。頭がこんがらがって来た。
 私は国を出たし、そもそもあの国と関わるのはゴメンだし、バカ王子は継承権がなくなって、クリード王子が第一継承者で、私を婚約者にっ?

 
「ちょっと、何勝手なこと言ってるわけ? アンタも、もっとシャキッとしてくんない?」

「えっ、私っ?」
 

 ジロリと、アルジュが睨むように私を見た。
 なぜ睨まれているのか全く理解できない。

 だけどアルジュは、とんでもないことを口にした。

 
「アンタ、もう婚約者いるじゃん」
 

 ………………?

 ……はい?

 え、いつの間に私に婚約者ができたのっ?
 え、私記憶飛んでるっ?

 いや、そんなことない。大丈夫よ、アメリア。私は普通よ。アルジュがおかしい。私に婚約者なんていないわ。

 私の戸惑いを察知したのか、アルジュは呆れたようにため息をついた。そして爆弾を落とす。

 
「アンタ、事実上王子の婚約者でしょ」

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