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29 厄日ってこんな日のことを言うのね

「お、王子って……エルク?」

「それ以外に王子がいるなら教えてくれる?」
 

 私は絶句した。

 
 えっ、いつの間にエルクの婚約者になったの!?
 聞いてない。そもそも、婚約者ってそんな簡単に決まるものっ?

 だって、まだ会ってひと月経ってませんけどぉ!?
 

「アンタ、王子の頼み聞くことにしたじゃん」

「え、それが、何?」

「……、アンタ、もしかして聞いてない?」

「な、なにが」
 

 なにこれ、聞くの怖い。

 
「疲れもせずに、常に結界を張っていられると思う?」

「それは……レベルが、上がれば……」

「違うね。アレができるのは、代々王族だけが持つ治癒の力のおかげ」
 

 ……なんだろう。

 この、いやーな予感。

 
「あの国では、王と王妃、二人の力で国を護ってきてる。結界持ちというのは、それだけで王族のパートナーになりうるってこと」

「…………」

「説明されなかったんだ?」
 

 私は無言でうなずいた。

 
「アンタ、王子にハメられたね」

 
 ニヤリとアルジュが笑う。

 そんな楽しそうに笑わないでくれます?

 治癒の力持っていたのは知っていたけれどねっ? なんなら、おばば様の部屋がやけに豪華だなぁとか、王宮に住んでいるのねとか、エルクに対する接し方が孫にするみたいだなぁとか、仲良いのねとか、いろいろ思ったけれどね?
 確かにエルクは、結界持ちの地位は高いって言ってたけれどね?

 それが、王妃だなんて聞いてませんけどぉっ?!

 そして私は理解した。
 アルジュが私にエルクが好きなのかと聞いた意味を。
 この男、知ってたからそんなこと聞いたのねっ?!

 私はやり場のない感情を必死に押しとどめながら、アルジュに問かける。

 
「……っ、なら、エルクのお母様は……」

「あ、それも聞いてなかったんだ」

「どういうこと?」

「王子の母君は、もう亡くなってるから」
 

 今度は、スっといろんな感情が凪いでいくのを感じた。

 
「一度、王子と話したら?」

「……そうする」
 

 納得したことだし帰ろうとして、クリード王子の存在を忘れていたことに気づく。
 あ、と思って視線を向けた時には、クリード王子のコメカミには青筋が浮かんでいた。かわいい顔しているのに、なかなかに迫力がある。

 
「……今日は一旦引くよ。作戦を練り直さなきゃいけないみたいだ。だけど、君が無事でよかった」
 

 なんと答えたらいいのかわからず、曖昧に笑う。

 
「ファーレスト公爵令嬢、いいや、アメリア。僕は君を逃がさない」
 

 そう言って、クリード王子は背を向けて歩き出した。

 ませたガキンチョね、と思いつつその背中を見送る。

 なんだかめんどくさいことになりそう。

 ため息をついて、アルジュを見上げる。と。
 アルジュはやけに鋭い瞳でクリード王子を見ていた。

 
「アルジュ?」

「アイツ、本当に人間?」

「え、そうだけど……」
 

 クリード王子は王と正妃の子だ。バカ王子とは正真正銘血の繋がった兄弟。性格はわりと真逆だけれど。

 
「どうしたの?」

「アイツ、嫌な風だな……」

「風?」

「前に……、」
 

 何かを言いかけたアルジュは、ハッとした顔をして駆け出した。

 
「ちょっとアルジュ!」

「悪いけど、適当に宿とっててくれる?」

「いいけど、ええっ」
 

 次の瞬間、アルジュの姿は消えていた。

 あの騒動から一転。

 ひとりポツンと残される。

 
「……なんなのよ、もう」
 

 なんだか今日は、あの婚約破棄された日と同じくらい、厄日だ。

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