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30 称号の意味

 嵐が二つも去り、一人取り残された私は、アルジュに言われた通り適当に宿を取ることにする。

 この国は元いた国に近いこともあって、マニーが使えた。
 ならば奮発してやると、王都一番の宿を取ろうとして、万が一クリード王子と鉢合わせしたら……、という恐怖から、私はそこそこの宿を取ることにした。

 部屋を二つ借りて、部屋に入った途端見えた木製の椅子に腰かけ、ぐったりと背中を預ける。

 疲れた……。
 なんかもうよくわからないけれど疲れた……。

 考えることが多すぎる。
 一体どうなってるのよ。婚約破棄から私の人生、はちゃめちゃよ。

 順に整理すると、バカ王子は私と婚約破棄して、主人公フィルと結ばれる、と。
 でも王位継承権を剥奪されて、今はクリード王子が第一継承者、と。
 そしてなぜかクリード王子は私を婚約者にしようとしている、と。

 ここがわからない!

 どうして私? なんのメリットもない。そもそも私は家を出たし、行方知らず。わざわざ探す? いいや、探さない。汚名を着せられた令嬢より、もっと王妃にふさわしい人はいる。

 
「何考えてるのかわからないわ……」
 

 あの乙女ゲーム、腹黒ヒロイン開花イベントのルートは、ノーマルエンドなのよね。
 そして、難易度高すぎるアメリア懐柔ルートは、ハッピーエンド。
 この違い、なんだったかしら……。

 乙女ゲームは通常、バッドエンド、ノーマルエンド、ハッピーエンドの三つが存在する。
 それぞれ選択肢やレベル、倒した敵の数でルートが変わっていくのだけれど……。

 王子ルートのバッドエンド……王子が死んだような……。

 バッドエンドとノーマルエンドって、完全な幸せじゃないからあんまり記憶にないのよね。特にバッドエンドなんて、その名の通りいやーな結末だ。人が死んだりする乙女ゲームもわりとある。

 ハッピーエンドは覚えてる。王子と結ばれて、国民にも祝福されて、名実ともに幸せになる。

 じゃあ、ノーマルエンドは?
 選択肢は何を選んだっけ……。

 
「……忘れてしまった」
 

 アメリアが睨んでいたことしか覚えていない。
 また紙に書き出して考え直さないとダメかもしれない。
 

「こんなことなら、もっとやり込んでおけばよかった」
 

 数ある乙女ゲームの中の一つと、全く同じ人生を歩むことになると予想できていたなら、死ぬ間際までやった。寝るまを惜しんでやった。記憶の奥の奥に刻みつけた。
 まあ、予想できていなかったから今こうして困っているんだけど。

 クリード王子の考えもわからないし、アルジュはどこかに行くし、エルクだって……。

 
「自分勝手な男が多すぎる……」
 

 不幸のアメリアは、どこへ行こうと永遠に不幸が付きまとうのかもしれない。

 まあ、そうは言っても、不幸も幸福も感じ方次第ね。
 同じ出来事でも、不幸と嘆く人もいれば、幸運と笑顔になる人もいる。
 幸運に捉えるなら、どうやら実家は無事らしいということ。国に戻ることができるのかもしれないということ。汚名はなくなったのかもしれないということ。
 どこへ行こうと王妃になるのかもしれない、ということ。

 ……これって良いことなのかしら。もうよくわからない。

 目の前のテーブルにぺたりと頬をくっつける。

 まあ、いいわ。全部なぎ払って、私は私の思う人生を選ぶ。それだけよ。

 
「そういえば、レベルいくつになったんだっけ」
 

 顔を上げて、何もない宙を見つめる。

 
「イリュージョン」
 

 そう呟くと、すぐに透明なウィンドウが表示される。
 表示された文字を追って、ギョッとする。

 
「レベル58!? はやっ。しかも何この称号」
 

 見覚えのない称号が追加されていた。

【血も涙もない殲滅者】
【追われる者】

 
「……見なかったことにしよう」
 

 私は視点を変えて横に表示されているステータスを見る。
 そこに表示されているのは、アルジュのステータス。
 それを目で追って、ギュッと眉を寄せる。
 この称号って、エルクのスキルカードには書いてなかった気がする。このウィンドウ限定? そもそも、称号ってなんの意味があったっけ。

 なんか、人生を覗き見てるみたいであまり良い気はしないのよね。

 それに――

 
「エルクたちの時も思ったけれど、この、称号……。いったい何が?」
  

 
 
 
【ステータス】
 名前:アルジュ・フォン・ディークラント
 種族:魔人
 レベル:115
 スキル:風魔・移動・通信
 称号:気ままな放浪者・裏切られし者・愛する者を失いし者・心を閉ざし者・全てを切り裂く者・黒の死神・王の腹心

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