31 いつのいつの夢の中

 深い森深い森、そう、森の中にいた。

 随分と不器用な人が作ったのか、所々ひん曲がった、下手くそな、丸太で作られた小さな家。その隣には、いろいろな葉が顔を出している畑。少し湿った土を、懸命に掘り返す。

 あれ、どうして私こんなところにいるんだっけ?
 と目を瞬いて、まぁいいかと、とりあえず土を掘った。すると、
 

『あんた、今なにしてんの』

 
 声が聞こえた。アルジュの声だ。

 何してるのって――

 
「え、土掘ってる」

『はぁ?』
 

 そんな怪訝そうな声を出されたって、私にだってわからない。わからないけど、なぜか土を掘っているのだ。

 
『なんでそんなところいるの』

「えっ」

 
 なんで?
 なんでだろう。そんなの、私にだってわからない。

 
「気づいたら、ここに居たの」

『はぁ?』
 

 ますます怪訝そうな声が聞こえた。
 

『ちょっと待って、どこにいるかわかってる?』

「森の中?」

『……あんた、頭大丈夫?』

「失礼ね! 正常よ」

『いや、だってこんな時間に森って、死ぬよ』

「大丈夫大丈夫。だって、私は――」

 
『「調香持ちだから」』

 
 
 笑って顔を上げたけれど、誰もいなくて。あれ? と思ったところで急激に意識が浮上した。
 

「……ウソツキ」

 
 目を開けると、暗かった。薄暗い部屋、物音がしなくて、あれ、ここはどこだろう。と、また混乱に苛まれる。

 
「あんた、森の中になんかいないじゃん」
 

 アルジュの声がして視線を横に向けた。
 じっとりとした視線で私を見下ろしているアルジュがいて、飛び起きた。

 
「えっ!? アルジュ!?」
 

 ちょっと待って、鍵かけたはず。というか何!? なんでアルジュがいるの!?

 
「はぁ……あんたが森の中にいるとか言うから、焦った」

「え……私が?」
 

 私は宿で寝てたけど?
 と、思いながら、そういえば夢の中でアルジュの声を聞いたような気がする。なんの夢だったか、忘れてしまったけれど。

 
「通信で話しかけたら起きてるみたいだったから」

「通信?」
 

 アルジュのスキルの電話のことだろうか。

 
「そう」

『こんな感じで』

 
 う、わっ。なにこれ。頭に直接響くみたいな、なんか、なんかっ、気持ち悪い……っ!
 ゾワゾワっとした。こう、気持ち悪いものを見てしまった時に湧き上がるあの感覚。背筋がゾワッとする感覚。

 
「うぇ、なにこれ気持ち悪い」

『殺すよ?』

「うそうそっ! それよりなんで部屋に……鍵かけたはずだけ、ど……」
 

 言いかけて、気づく。
 こいつ、移動で部屋に入ってきたに違いない。
 鍵が鍵の役割を果たさないなんて、聞いてないんですが?

 むっつりと口を閉ざして押し黙る。アルジュが面白そうに目を細めた。

 
「移動で来たけど、って、言った方がいい?」

「言わなくてもいい。というか、言ってるし」
 

 フンと顔を背けて、もそもそと布団を引っ張りながら横目にアルジュを見る。

 
「それより、何してたの?」

「ん……?」

「起きてたんでしょ。こんな時間まで」
 

 窓の外を見る。真っ暗だ。時計が部屋にないから正確な時間はわからないけれど、夜中の二時か三時くらいだろう。

 
「まぁ、ちょっとね」
 

 アルジュは何をしてたとは言わなかった。

 言いたくないなら別にいいけど、とまたベッドに体を横たえる。

 
「なに寝ようとしてんの」

「アルジュこそ、今何時だと思ってるの」

「いいから、起きてくれる?」
 

 文句を言う前に布団を引っペがされる。

 
「ちょっと! 普通レディの布団引き剥がす!?」

「あんた、うるさいよ。今夜中」

 
 イラァ。文句が口から飛出そうになって、ギリギリと拳を握ることで押しとどめた。
 落ち着いて、落ち着くのよ。今は夜中なんだから。

 
「いいから、起きて。ここを出るよ」

「出るって、今?」

「なるべく早い方がいい。荷物持った?」

「持てるわけないでしょ。まだベッドの上だけど」

 
 すっとぼけているのかこの男は、と胡乱な目で見つめる。

 
「あんたトロイ」
 

 大げさにため息を付いて、アルジュは何かを掴むように手を動かす。

 こいつ……っ。
 私がいつかアルジュのレベルを抜いたら、この男っ、絶対泣かす!!!

 ギロッと睨みつけると、アルジュの手には私の荷物が握られていた。カバンに服にナイフまで。テーブルに置いた物も、壁にかけていた物も、一式セットだ。
 えっ、なになに。いろいろ怖い。これも移動の力!?

 アルジュが無言で差し出してきた手を、私は引きつった顔のまま握った。

 次の瞬間。

 私とアルジュは、見覚えのある、紫の絨毯に白で描かれた魔法陣の上にいた。

 
「あ、これ……エルクの城にあった」

「おばばの結界があるから、移動はこの魔法陣を目印にしてる。とりあえず、あんた適当に上使って」

「上って……」

 
 私は辺りを見渡した。
 安っぽい宿とは違う、ツルツルした床。ガランとした、特に物のない広い部屋。豪勢な飾りとかは何もなく、なんだか寂しい感じだ。

 広いし、綺麗なんだけど。
 だからこそ、余計にもの寂しさを感じる。

 と、いうか、寒っ。

 ぶるりと身震いして自分を抱きしめる。
 吐き出す息が白かった。
 

「それ着て」
 

 ポイと何かが投げられる。広げてみると、厚手の黒い服。アルジュが好みそうなデザイン――って、まさか。

 ボッと、火が点った。
 視線を向けると、アルジュが暖炉に薪をくべていた。

 
「アルジュ? ここって」
 

 アルジュは怪訝そうな顔をして振り返った。

 
「なに? 俺の家だけど」
 

 や、やっぱりそうかーーーー!!

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