35 人殺しのアルジュ

「エルク様! ご無事ですか!」

「王子! いるっ!?」

 
 扉をぶち破るような勢いで、マルクとアルジュが部屋に転がり込んできた。

 
「何があった」

 
 エルクが私を抱きしめたまま、険しい顔で問いかける。

 
「それが……結界が、破られました」

 
 マルクが苦汁をなめたような顔で、絞り出すように告げた。

 
「おばばは?」

「問題ありません。すぐに張り直したようですが、何者かの侵入を許してしまったようです」

 
 緊迫した空気が流れる。
 チラリと、アルジュが私を見た。なに、その顔。
 ……まさか、クリード王子が?
 いや、そんなバカな。あの王子がこんな場所まで来れるはずがない。そもそも、結界を破るなんて、そんな人間離れした――

 再び巨大な爆発音が響き、大きく揺れた。途端に砂煙が舞う。
 地震? 違う、誰かが、王宮の壁を壊したんだ。

 
「おさがりください」
 

 マルクが剣を構え、前に立つ。

 ザリっと、砂の上を歩くような音がした。私たちじゃない。じゃあ、誰が。
 心臓がうるさく鳴り響く。何よこれ。こんなの聞いてない。いくらレベルが上がったっていったって、こんな爆発、体験したことない。
 カタカタと手が震えだした。

 
「アメリア、大丈夫だ」
 

 エルクがそう囁いて、強く私を抱きしめる。
 強い眼差しを見つめて、自分の足を自分の手で思いっきりつねった。
 とんでもなく痛かった。肉がちぎれるかと思った。まさか、これもレベルアップの影響?

 そんなことより、震えている場合じゃない。しっかりしないと。

 みんなを守らないと――

【スキル、結界を使用しました】

 結界は破られることもあるらしいから、どこまで効果があるのか、わからないけれど。ないよりはまし、だと思いたい。

 じりじりとした嫌な沈黙の中、声が響いた。

 
「あーあ、汚れちゃったよ、まったく」
 

 少し高めの、ねっとりと絡みつくような声。聞いたことのない声だった。
 エルクがさらに強く私を抱きしめる。

 私は、透明なウィンドウが表示されたのに気づいた。

【トネール・フォン・ディークラントが現れました】

 トネール? どうやらクリード王子じゃないらしい。
 というか、ウィンドウが現れたということは、戦闘!? こんな急に!? というか相手何者!? 話してるけどっ。人なの!?

 何か、もっと情報出ないのっ? ゲームだと詳細確認できるじゃないっ。

 じーっとウィンドウを凝視しながら念じていると、追加情報、敵のステータスがズラッと表示された。私はそれを素早く目で追う。

【ステータス】
 名前:トネール・フォン・ディークラント
 種族:魔人
 レベル:123
 スキル:雷神・操り・飛行

 ……魔人?

 私は、砂塵の舞う中、目を凝らして現れた敵の方を見る。
 確かに、耳が、長いような……。

 黒い髪に、いかづちのような金の瞳。
 その目が、一人の人物に向く。ニタリと、嫌な笑みを浮かべながら。

 
「あ、久しぶりじゃん。人殺しのアルジュ」

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