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38 なんか、性格変わりました?

 貧血で倒れた私は、しばらくの間眠ったままだったそうだ。三日くらい。
 目が覚めたら、エルクが目を真っ赤にして私を見ていて、あれ、私ウサギなんて飼ってたかなと錯乱した。

 私が死にかけてからのエルクは、なんだか少し変わった。世話焼きになった気がする。

 今も、私を旅に連れて行くか否かで迷っているらしい。
 私の仮部屋として与えられた部屋のソファーに腰かけて、エルクはずっと難しい顔をしている。もう準備は終わり、明日出発だそうだ。

 
「ねぇエルク?」

「うむ」

「ダメならダメでいいけど、私レベル上げには行くよ」
 

 エルクはカッと目を見開いた。そしてダメだダメだと言いたげに、頭をぶんぶん振る。
 いや、レベル100必要だと言ったの、あなたでしょう。

 
「まだレベル足りないし」
 

 アルジュが居ないんじゃ、あの反則的なレベル上げもできない。

 
「だが、しかしっ、うむ、うぅ……」
 

 あ、かわいい。

 頭を抱えてウンウン悩むエルクを見ながら、ズッとお茶をすする。

 
「それに、あの魔人、私を狙ってるかもしれないから、あまりこの国にはいたくない」
 

 キッパリとそう告げると、エルクはそっと私を見て、決心したようにうなずいた。

 
「うむ、わかった。共に居たほうが守れる」

「うんうん」

 
 そうそう、とうなずくと、ジロリとエルクが私を睨む。
 最近のエルクは、反抗的な態度を覚えたらしい。こうやって、時たま睨みつけてくる。しかもイケメンだから結構な迫力。

 
「もしもまた、同じようなことがあったら……私は、主を決して許さぬ」

 
 声まで低くして威嚇してくるんだから、怖いのなんのって。私はエルクの開いてはならない扉を開いてしまった気がする。

 
「もうあんな無茶はしないよ。約束する」

「絶対だ。破ったら……破ったら、」

「破ったら?」

「監禁する」

 
 ブホッとお茶を吹き出した。ちょっと待ってエルク、あなたどこでそんな物騒な言葉覚えたの。私は悲しい!
 零れたお茶を布で拭いながら、エルクを見る。
 うわ、目が本気だ。本気と書いてマジと読むやつだ。危ない目をしてる。
 そういえば、王族ってやたら精神病む人が多いとか聞いたことあるような……はは、まさかね?

 
「しっかり面倒見るから心配しなくてよい」

「いや、そんな心配してないけど。ほんとにしたらダメだからね? 犯罪だから」

「なんのことかわからぬ」
 

 こんな時ばかりしらばっくれないで。
 エルクはそれはそれは美しい微笑みを浮かべてお茶すすった。イケメンめっ。

 
「それで、アルジュの行先はわかってるの?」

 
 とりあえず本題を切り出す。

 
「直感のスキルを使用する」

「なるほど」

「あとはこれだ」

 
 エルクはポケットから小さな石を取り出すと、テーブルの上に置いた。ブラック鉱石? でも、真ん中に紋様が刻まれている。なんか、人がジャンプしてるみたいな……ダサいやつ。

 
「……なにこれ」

「移動石だ」

「移動石?」

「移動のスキルを結晶化させた物だ」

「えっ、そんなことできるの!?」

 
 なにそれ便利すぎる。欲しい。じーっと見ていると、エルクが取り上げるようにその石を手に取った。

 
「移動石は貴重だ。使用できる回数も少ない。渡すことはできぬ」

「けち」

「ケチではない。それに……」

 
 エルクがチラリと視線を寄越した。
 ん? エルクちょっといじけてる?

 
「なに?」

「移動石なんて渡したら、一人でどこかへ行ってしまうだろう」

 
 ポカンと口を開けてエルクを見た。
 エルクの顔が、たちまち赤く染る。耳まで赤い。

 なにそれ。かわいい。その顔もかわいい。飼い主に置いていかれるのを嫌がる子犬みたいなかわいさだ。

 
「行かないよ、どこにも」

「……ウソだ」

「嘘じゃないよ」

「死のうとしたではないか」

「いや、自殺願望あるみたいに言わないでくれるかな?」

 
 別に好き好んで死のうとした訳じゃない。
 目がくらんで、とっさに守らなきゃと思ったら、対象三人だけ守れるってなったから、それならって、たまたま自分が人数に入らなかっただけで、自殺したかったわけじゃない。

 
「アルジュもマルクも私も、自分の身は自分で守れた」

「ウソ」

「本当だ」

「だって、エルク私とレベル同じくらいだし、無理だよ、無理」

 
 言い切ると、エルクはムッと目を釣りあげた。
 あ、まずい。男の子のプライドを傷つけたかも。

 
「だからって、雷に貫かれた主を見た時の私の気持ちは、主には絶対にわからない」

「それはわからないかもだけど、まあ、そんなに怒らないでよ」

 
 そもそも、レベル100にして来いって、魔物の巣窟に送り出したのに、今さらなにを。男の子の考えることは、よくわからない。

 
「それよりも今はアルジュよアルジュ。エルクはアルジュとあの魔人の関係、知ってたの?」

「アルジュがずっと誰かを探していることは知っていた。私とアルジュが出会った時、アルジュは暗く荒んだ目をしていた」

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