6/3 中編新作公開しました

39 魔人アルジュ

 エルクがアルジュと出会ったのは、エルクが十歳の時。エルクは私と同じ歳だから、つまりは六年前だ。

 当時のアルジュは、無差別に魔物を狩りまくっていたそうだ。それでちょっとした有名人だったんだとか。
 そしてついた異名が『黒の死神』。
 なんか、そんなようなのを称号で見た気が……。

 そしてエルクはそのカッコいい異名に惹かれて探しに行ったのだとか。私なら絶対に会いたくない異名だけど、エルクの感性はわからない。

 
 そして、どうしてアルジュがひたすら魔物を狩っていたかというと、恨み、懺悔、償い、と、訳アリの臭いがぷんぷんだ。

 
「アルジュは死にたがっていた」

「そうなんだ」

「でも生きたいと思ってもいた」

「矛盾してない?」

「うむ。矛盾している目をしていた。どちらも嘘をついていなかった」

 
 へぇとうなずきながら話を聞く。

 
「死にたいけど死ぬ訳にはいかないのが辛いと、そう言っていた」

「アルジュがペラペラ話すの珍しいね」

「おっかなかったのでスキルを使った」

「……」

 
 何この子、恐ろしい子っ。
 私はゾッとした。エルクは操りのスキルを持っているの忘れていた。この国の人は息をするようにスキルを使うらしい。

 
「そ、それで?」

「ならば私と来いと誘った」

「いきなり!?」

「うむ。アルジュは目を丸くして笑った」

 
 私でも笑ってしまう自信がある。いや、でもよく考えたら、私も唐突に誘われたような……。
 そろっとエルクを見る。

 
「断られそうになったから、何をそんなに償いたいのかと聞いた」

「なるほど?」

「そしたら、愛する者の幸せを壊した罪だと言った」

「幸せを壊す?」

「自分と出会わなければ、彼女は死ぬことはなかったと」

「なるほど」

 
 それで、人殺しのアルジュ、か。

 
「それで、エルクはどうしたの?」

「人の価値をどうして主が決められるのかと問うた」

「うわぁ、それは、また、なんと言うか……」

 
 痛い言葉だなぁ。無自覚だろうけれども。

 
「その者が主と出会って幸せではなかったと、どうして主が決められるのかと」

「エルクって、やっぱり王様だよね……そう思う……」

 
 痛いところをグサグサ突いてくるんだよね。恐ろしいくらい。

 
「そうしたら」

「うん?」

 
 エルクは言いづらそうに顔をしかめた。
 そんなとんでもないことをしでかしたのかと、ゾッとする。

 
「アルジュは泣いた」

「あー……うん、そうね、うん」

「静かに泣いていた。だから私は、もう一度共に来いと誘った」

「……エルクって、タラシだよね。怖い」

 
 十歳の子どもが言うんだから余計恐ろしい。
 誰かに言って欲しかった言葉を、なんてことないように口にする。ずるいと思う。けど、アルジュや私みたいなのは、弱いんだよ、そういうの。

 
「前に、主に魔人は人と変わらないとそう言ったが、あれは嘘だ」

「そうなの?」

 
 まあ、やけに早口と言うか、三人とも誤魔化してる感じはあったけれど。街にも、耳長い人とかいないし。

 
「魔人はどこから来るのかわからぬ。自然現象の塊、畏怖の象徴とされていた」

 
 過去形なんだと思いながら聞く。

 
「昔の書物に書き記されていた、風神雷神という残酷な神々についての話がある」

「ふーん?」

「おそらく、一人はアルジュのことだ」

「えっ!」

 
 なにそれどういうこと。

 
「百五十年ほど前に突如現れたソレは、風と雷を自在に操り、気まぐれで地上を荒らして回っていたそうだ」

「へ、へぇ……」

「突然の雷雨、突風、畑が荒らされたり家が飛ばされたりと、そんなことが続いていた」

 あんなすかした感じなのに、昔はやんちゃだったのね。

 
「それが、突如終わりを告げたそうだ。今から、百年ほど前。アルジュが、人に恋をしたからだろう」

 
 あ。と私はなんとなく悟った。

 調香持ちが厄災を招くのではなく、調香持ちが厄災を跳ねのける、それはもしかして、実体験だったの?
 それまで人にとっての厄災だったアルジュが、調香持ちに出逢って変わったから?

 ん? それじゃあ、もう一人の……。

 あれ、そういえば、錯乱してたけれど。あの魔人、名前……。ディークラント、だったような。

 
「……、ねぇエルク」

「うむ」

「アルジュってさ、名前、なんだっけ」

「アルジュ・フォン・ディークラントだ」

 
 うわぁ、やっぱり、やっぱりそうだ。

 あの二人、兄弟なの!?

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