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42 捕食者捕食者、身の危険?

 マルクとエルクと、剣を交えながら森を進む。
 静かな森の中に、剣と剣がぶつかる大きな金属音が反響した。

 マルクとガキンッと剣を交えて、そのまま一気に押し負けて剣を弾かれる。
 私の手から離れた剣は、後方でくるくると回り、地面に突き刺さる。

 
「いったぁ! 腕、腕痺れるっ。マルク怪力すぎ!」
 

 三人に鎧の様な結界を張っているから傷はつかないとしても、力での暴力にはお手上げだ。

 
「悪りぃ、お嬢。お嬢は力で押すのはオススメしませんね」

「そうよねぇ。やっぱり私は暗殺向きかしら?」

「……」

 
 相手を無抵抗にしてさっくり、というのが一番あっている戦闘スタイルの様な気がする。

 
「アメリア、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫、傷はつかないようになっているもの」
 

 エルクは顔をしかめ、右手を私の腕に手をかざす。
 すると、だんだんと手がじんわりと温かくなり、痺れていた腕の痛みも消えていく。

 手を開いたり閉じたりして、異常がないことを確かめる。

 すごい、これが治癒なのね。
 なんとなく、国の王と王妃が治癒と結界のペアという理由がわかった気がする。

 だって、こんなの反則すぎる。
 反則的な強さだわ……っ。

 結界で恐れるくとなく突っ込んで敵をサクサク殺していき、こっちは治癒で永久に健康体。
 下手したら、私とエルクの二人で一国を落とすこともできる気がする。
 恐ろしいから口にはださないけれど。

 
「エルクありがとう」

 
 一言お礼を言い、後ろに突き刺さっている剣を抜く。

 さて、と振り返ったところで、エルクが森の奥を見つめているのに気づいた。

 
「エルク?」

 
 私が声をかけたのと同時に、誰かが木の陰から出て来た。

 
「あんたら、なにやってんの」
 

 呆れた顔をしている、アルジュが立っていた。

 
「アルジュ!?」

「派手な金属音が響いたから何かと思って来てみれば……」
 
「あ、はは……」
 

 私はそっと、剣を鞘に収めた。
 アルジュが私をじっと見る。怪しむ様な、不思議な視線。

 
「な、なに?」

「本物?」

「え、なにが? 本物って――」
 

 怖い顔をしたアルジュが私の真ん前に立った。
 なになに? こわいっ!
 身を引こうとするより早く、アルジュの手が伸びて来た。私の背中に、アルジュの手が回る。

 
「え」
 

 気づいたら、アルジュに抱きすくめられていた。
 驚きのあまり、間抜けな声が出た。

 
「はぁ……、生きてる」

「……。生きてるよ。私は、生命力には満ち溢れてるみたいなの」

「あんた、けっこうむごいことするもんね」
 

 それは関係なくない?
 というツッコミは声には出さなかった。

 
「だいたいさぁ、バカなの?」

「え、え、なにが」

「俺はあんたより強いし、あんたに庇われるとか癪なんだけど」

「それはすいませんねぇ」
 

 ここに来てまで嫌味かと思っていると、さらに抱きしめられる力が強くなった。

 
「……、でも、ありがとう」
 

 意識しなければ聞き逃してしまうような声。
 仕方がないわね、と肩をすくめる。と。

 バリッと音がしそうな勢いで引き剥がされた。
 後ろを見ると、むーっと不満を顔いっぱいに現しているエルクが。

 
「エルク? 顔が……」

「もうよいだろうっ。帰るぞ!」

「王子、男の嫉妬は見苦しいよ?」
 

 アルジュの言葉を受けてエルクの顔が真っ赤に染まる。
 嫉妬、嫉妬……?
 小さく吹き出して、そっぽ向いているエルクの頭を背伸びしながらわしゃわしゃと撫でる。

 
「すねないすねない」

「拗ねてなどいない」

「うんうん」

「子ども扱いするな!」

「わかったわかった」
 

 最後にポンポンと頭を叩いて、体を離そうとすると、それを押し留めるように腕をつかまれた。
 え、っと思っていると、口のギリギリ横に、何かが触れる。すぐそこには、エルクの顔が。

 目が合うと、エルクの紫の瞳が猫のように細くなった。

 ドバッとエルクから色気が放出された。
 まともにそれを食らってしまって、瞬間、心臓が止まる。

 時間が止まったような感覚の中、エルクをただ凝視していると、エルクが聞いたこともないような掠れた声で囁く。

 
「子ども扱いするからだ」
 

 そして、上機嫌に笑ってエルクは私を解放する。

 ふんふんと機嫌良さそうにアルジュを連れて歩いて行く背を目で追って、そっと、自分の手を口の横にあてる。
 

 今、今。

 キス。

 い、いや、ギリギリ口の横だった、そう、口の横。

 でも、でもでも。

 
 猫のような、獲物を狙う捕食者のような目が、頭の中に焼き付いて――
 

 ぐるりと、視界が回った。

 
「うわっ、お嬢!? お嬢しっかり! え、エルク様ーー! お嬢が、お嬢が倒れましたっ!」
 

 どこか遠くで、マルクの狼狽える声が聞こえた。

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