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44 エルクの異変

 私が、意地でもついていくという強い意志を示すと、アルジュは私の目を見て、巨大なため息を吐いた。

 
「あんた、自分が狙われてる自覚ある?」

「なら、余計のうのうと暮らしてるわけにはいかないわ。事の始末はきっちり見届けないと」

 
 アルジュが嫌そうに眉を寄せる。

 
「ひとつ聞くけど」

「なに?」

「あんた、あのクリードって男になにしたの」

「はぁ?」
 

 変な声が出た。んんっと咳払いして、姿勢を正す。

 
「あの王子、やけにあんたに執着してるみたいだけど」

 
 そんなの、私が聞きたいくらい。
 私の婚約者はバカ王子だし、クリード王子と関わりなんてほとんどない。
 まあ、年齢はわりと近いし、何度か話したりとかはしたことあるけれど。

 
「身に覚えがないわ」

「ふーん、あんた、悪女だね」

 
 ギクリと体がこわばった。
 悪女!? 私がっ?
 乙女ゲームで死ぬ女はだいたい悪女と言われてたけど、まさか本当にっ!?

 
「無意識に男を惑わす女を、悪女って呼ぶらしいよ」
 

 なんだ、そういう意味か、心臓に悪い。
 吹き出た冷や汗をぬぐいながら、緊張で速くなった心臓をなだめる。

 
「惑わしてはいないけど――」

「ふむ、アメリアは、間違いなく悪女だな」

 
 どこからともなくそんな声が私の言葉を遮った。私は入り口に視線を向ける。
 肌の上を滑る汗を乱暴にぬぐいながら、エルクが剣を片手に立っていた。
 手に持っていた剣を鞘に納めならがら、エルクが歩いて来る。

 
「アメリア、起きたのだな。よかった」

「……、ご心配をおかけしたようで」

 
 ツッと視線をそらしながらぶっきらぼうにそう答える。

 
「して、そのクリードとは?」

「……」

 
 聞いてたのね。

 
「求婚してきた、王子のライバル、ってとこ?」

「アルジュ!」

「……ほう、そのような者がいたとは。私は聞いておらぬ」
 

 そっとエルクをうかがい見る。
 う、わ。機嫌悪! 額に怒りのマークが見える。
 そのくせアルジュは面白そうに笑っているし、こんの薄情者ーーーー!

 
「い、いや、私だって知らなかったし! 何考えてるのかわからないし! お、落ち着いて?」
 

 目が、目が! エルクの目がっ、残忍な光を放っているっ。

 
「その者のところへ行くのか」

「え!? いや、行くけどなにか違――」

「行くのだな」

「いや、だから」

「許さぬ」

「だから、話を聞けっ! このバカ王子!」

 
 バシーンッと、痛々しい音が響いた。
 はっ、しまった。なんてこと。つい手が出てしまった。

 エルクはビンタされた頬を押さえてしゅんと肩を落とす。
 あ、治ったみたい。結果オーライ、よね?

 無理矢理納得して、とりあえず引っ叩いたことを謝罪する。

 
「……よい、私も気が動転していた。すまぬ」

「いいけど、何か変だよ。大丈夫?」

「頭の中に、主が血まみれで倒れる姿が焼き付いて離れないのだ」

 
 エルクが頭を押さえながらそう口にした。

 辛そうに額に指を添えて眉間にシワを寄せる姿をじっと見つめる。

 
 もしかしたら、私は思い違いをしていたのかもしれない。

 
 私の中に、ひとつの仮説が生まれた。

 
 まさか、まさか。
 ゲームの中でバカ王子とクリード王子を殺したのって、エルク……?
 エルクがちょっと変になったのって、私が死にかけてからだ。

 もしかして、ゲームのアメリアはあの魔人の襲来で本当に死んでしまっていて、そしてその復讐のために、エルクが王子たちを殺した、と。

 うわ、否定できないっ。

 あんな純粋なエルクに人を殺させるわけにはいかない。
 元に戻すためにも、私は強くて死なないということを証明しなくては。

 私は、意地でも生きなければいけない。

 
 そして、やっぱり、全てに決着をつけなければ。

 もう一度、あの地に行こう。
 

 全ての始まりの、あの国に。

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