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47 称号、悪魔の化身

 この世には、死ぬより辛いこと、というのが存在する。

 もういっそ死んでしまえたら楽になるのに、とそう思うような、生き地獄だ。

 そして今まさに、私はその生き地獄にいた。

 切り立った崖に面した、草の茂るその場所は、恐ろしい生き物たちの住処だった。

 地面を這い、崖を進み、あらゆる所からを顔を出す。シャーッと威嚇する声が聞こえる。
 目を開けたくない。開けたら死ぬ。そう、私はもうここで死ぬのよ……。

 
「アメリアっ、アメリアしっかりしろ!」

「ぅ、う、もうやだ。どうしてこんなところに」

「おおっ、エルク様! こいつら倒すとレベルが簡単に上がりますよ!」
 

 この場は、地獄だった。

 
「はぁ……王子、その女預かる」

「……」

「なに、何もしないよ」

「うむ……」
 

 アルジュが、私の両脇に手を入れた。
 私は離れまいとしてエルクの首にしがみつく。

 
「うぐっ、アメリアっ、くびがっ」

「ちょっとあんた、手離してくれる?」

「いや!」
 

 首を振ってしがみつく。
 アルジュの元に行ったら、その場に落とされるのが目に見えてるわ。そして私は悪魔に囲まれるっ!
 今の安全地帯はここだけっ……!!!

 私はこの場を死守すると誓う。

 
「あんた、いい加減にしないとその辺にぶん投げるよ」
 

 やっぱりこの男は悪魔だと確信して、ハッとする。

 ぶん投げる?

 私はそっと、空を見上げた。
 あのときの芋虫と違って、ここの悪魔たちは空を飛ばない。噛みついたり攻撃はしてくるみたいだけど、空は、飛ばない。

 あのとき。
 空にいる芋虫を結界に閉じ込めたとき、結界は地面に落ちなかった。ということは、きっと……!

 
「エルク!」

「うん?」

「私をっ、空に投げて!」

「……アメリア、気を確かに持つのだ。案ずるな、私が守る」

「い、い、か、らっ、投げて!」

 
 ガブガブと今度は首に噛みつく。

 
「……っ、わ、わかったから、噛むな」
 

 エルクの耳が真っ赤に染まっていた。
 エルクは右手に持っていた剣を鞘に収めると、前に来いと私の体を支える。

 
「私の手の上に乗れるか?」

「大丈夫」
 

 一国の王子を踏みつけにするのは気が引けたけれど、今はそんなことを言っている場合ではない。
 悪魔が迫っている。世にも恐ろしい、悪魔が。

 なんとか靴を脱いで、しがみついたまま前に移動する。まるでバレーボールでもするように両手を重ねているエルク手の上に足をつける。
 両手はエルクの肩の上に乗せた。

 
「主は軽いな」

「エルクはやっぱり男の子ね」
 

 私が乗ってもビクともしないのだから、妖精みたいな顔をしていてもしっかりと男の子だ。

 
「反動をつけて飛ぶのだ」

「チアリーダーみたいなのね、任せて!」

「……ちあ? まあ、よい。いくぞ」
 

 グッとエルクが少しだけ手を下げ、そのまま大砲の玉を打ち出すような勢いで私を空に投げた。
 反動のままに、私も高く飛ぶ。
 高く……って、高すぎないっ!?

 予想のはるか上空にいた。
 レベル補正というものなのかしら。身体能力が向上しているのかもしれない。

 ちょうどいい高さまで落ちたところで、結界を張る。
 四角い部屋のような空間を意識した。

【スキル、結界を使用しました】

 ピタッと止まって、空中なのに足がつくことに感動する。

 できた、できたっ。私だけの天国!

 下を見て手を振ろうとすると、エルクが顔を真っ赤にしたまま口元を覆っていた。
 なんだろうと思っていると目が合って、エルクがパッと視線をそらす。

 首をかしげていると、今度はアルジュと目が合って、アルジュはゆっくりと口を開けた。

 
「パンツ」

 
 慌ててスカートを抑える。
 まあ、見られたものは仕方がないわ。今回は自業自得だもの。下の地獄にいることに比べれば、なんてことない。

 それに、ここまで来てしまえばもう何も怖くない。

 フッと笑って、私はスキルを使う。

【スキル、結界を使用しました】

 さあ、恐ろしい恐ろしい悪魔たち。
 私の力になるのよ。

【スキル、調香を使用しました】

 バタバタと、例のアレが大量に倒れていくのを見て、笑いがこみ上げる。

【メタルスネークを討伐しました】

【レベルが68になりました】

 結構上がるのね。
 さすが、なかなかに強い魔物だったみたいね。

 でも、今の私に勝てるものなんていないのよっ!

 私は薄く笑って、再びスキルを使用した。

【称号、悪魔の化身を獲得しました】

 
「アルジュ、私はアメリアのパンツを見てしまった……嫁にもらったら許されるだろうか」

「……もうパンツ脱がすぐらいの勢いのがいいんじゃない。アレ見なよ。あのじゃじゃ馬っぷり」

「……。死屍累々だな……」

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