52 ゲームのヒーロー

 数十の魔物を倒し、私とマルクはなんとか城門までたどり着くことに成功した。ただ、門が閉まっている。
 門番もいないし、どうしたものかと思っていると。

 
「お嬢、これ壊しても大丈夫でしょうか」

「えっ、いや、そりゃあ壊せるなら――」

「承知!」
 

 マルクが剣を両手で振り上げ、一気に振り下ろした。
 硬い門、のはず。決して、けっっして、そう簡単に、そう、豆腐のようにスっと切れるような門ではない。
 なのに。

 マルクが剣を振り下ろした瞬間、門は真っ二つに切り裂かれ、派手な音を響かせて内側に倒れた。

 嘘でしょうっ!?
 大変っ、いくらするのかしらっ?

 て、今はそんなこと考えている場合じゃない。
 これは、王子の命を救って全額免除してもらうしかないっ!

 
「マルク! ついて来て!」

「当然!」
 

 お城の中を知っていて良かったと、今日ほど思ったことはない。

 夜の、しかも何の前触れもない襲撃だからか、城の中は地獄絵図となっていた。
 統率が取れていない。
 装備も整っていないし、お城の給仕の者なんて、怯えてなんの役にも立っていない。

 まずは、指揮を、指揮を取らないと。

 湧き出る魔物を切り裂きながら走る。
 階段を駆け上がって、王族のいるフロアに行こうとして、ピタリと足を止める。

 
「お嬢?」
 

 大人しく、部屋にいるタマだろうか。
 あんなんでも、私がケツを叩いてきた男だもの。
 間違いない、城が攻められたときに、王が指揮を取る場所。屋上!

 私は屋外へと続く螺旋階段を駆け上がった。
 風の抵抗を受け、フードが外れた。
 それでもそのまま走って、外へ出る。冷たい風が、体を貫いた。

 湧き上がる魔物の中心に、いた。剣を振り回し、なんとか兵に指揮を取ろうとする男。

 あんなんでも、ゲームのヒーローだものね。

 私は石の床を蹴ると、一気に剣を振り下ろした。

【スキル、結界を使用しました】

 
「アメリア!?」
 

 魔物を斬り裂いたことで、こちらに意識が向いたらしい。さらに続けざまに剣を振って、そして私に合わせるように背後をマルクが守る。

 
「アメリア、なのか……おまえは、生きてっ……」
 

 へたり込みそうになっているバカ王子を一瞥して、声を張り上げる。

 
「メソメソしてる暇があるなら剣を振るいなさいッ!」
 

 シャキッと背を伸ばしたバカ王子が、剣を魔物に振り下ろす。

 私は城壁の上に立って、下を見る。
 兵がいるけど、まとまってない。

 バカ王子の胸ぐらから、ブチッと指揮用の拡声器を奪い取る。

 
「第一軍隊、前へ!」
 

 兵たちが戸惑うようにざわめいたのがわかった。
 緊急事態だというのにっ……!

 
「こんのっ、大馬鹿者!! 死にたくないなら戦いなさいっ! 死にたい者は今すぐ魔物の前に出て壁になれっ! わかったなら隊列を整えなさいっ!!!」
 

 ビリビリっと、空気が痺れたような気もした。

 兵たちが、慌てて隊列を作る。

 兵の数が多いけれど、前衛にいる者たちになら、結界を張れそうね。

【応用スキル、身体結界を使用しました】

 
「前衛! あなたたちは今不死身よ! 心置きなく戦いなさいっ! 躊躇したら私が殺す」
 

 そう言いながら、吹っ飛んできた犬型の魔物を一刀両断した。

 それが兵の恐怖心を煽ったのか、ぶるりと兵たちは震え、前に出る。
 でもやがて、本当に不死身なことに気づいたようで、剣を振る動作が軽やかになった。
 そして、恐怖心が薄れたからか、わずかに魔物が減った気がする。

 一旦城壁から下りる。
 と、こっちもこっちでだいぶ片付いていたようだ。
 マルクのスキルだと思う炎が、敵を焼き尽くしていた。

 
「マルク! 怪我は?」

「問題ありません、お嬢、俺ぁ、一生あんたについて行きますッ!」

「はぁ? まあ、なんでもいいけど。エルクたちと合流したいのよね」

「そうですね、エルク様は――」

「あ、アメリア……」
 

 不意に、私たちのものではない声――バカ王子の声が聞こえて、振り返る。

 そこには、感極まったような表情をしているかつての婚約者がいた。

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